2002/1/14 Hojoさんの「Street Photographerへの道」

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  私のデジカメ友達の一人に、HojoさんというNY在住の方がいらっしゃいます。 インターネットで知り合って、未だに直接お会いしたことは無いのですが、普段から距離を意識することなく、掲示板を通してお話が聞けます。 Streetのスナップで腕を上げている、ツワモノです。Hojoさんのページは、こちら

  そんなHojoさんが、NYで参加したICP(International Center of Photography)のOne day lectureについて、Tomさんの掲示板でレポートを連載していました。 テーマは、「On the Street; Learn how to capture the heart and soul of your surroundings.」とても、掲示板で埋もれるには、 おしい名文だったので、Hojoさんのお許しを得て、こちらにアップします。Hojoさん、ありがとうございました。
  私も自分のPCのHDにコピペして置いとくより、よっぽどこの方が無くならないのよねぇ。(^m^;

  スナップを愛する人には、とても興味深い話題だと思います。お楽しみください。



  まず冒頭の設問 「Street Photographerの定義について述べよ」、に対して、辞書的に答えをまとめようとすると頭がタコになってしまいます。 出来るだけ具体的な話、例えば今まで自分が撮った街角写真の中で一番好きなものについて話すとか、そういうのが良いです。 設問はあくまでも触媒であって、それをネタに自由にストーリーを語り、それで自分の人となりが相手に伝わればしめたものです。

  「今朝起きてからこの教室に来るまでに、ふと撮りたいと思った被写体を3つ挙げよ」 これが第2の設問。 ここでまた紙と鉛筆^^; 3分間。今日は朝から事務所で3時間仕事をしてからここに飛んできた。 困った。必死で考える。ん! 思い出してきたぞV^^V   会社のとなりにあるデリカテッセン。 今朝は閉じていた。確か昨日も閉じていた。シャッター越しに中を覗き込んだ。暗い。テーブルが無造作に散乱。 ああ、出て行ったんだ。“I felt a strong sense of WE ARE GONE!” NYは過去数年のバブルで家賃が高騰、パパママストアーがどんどん追い出される社会現象になっています。 外からこの様子を撮ってみようかな、でも上手いアングルが見つからない。止めとこう。寒いし(朝7時)。 この店不味くて好きじゃなかったし(一同笑)。
  よく思い出すと、自分はこういう思考と行動をほんの一瞬のうちに(1・2秒)やっていたのです。 埋もれた意識の中から自分を掘り出す。一つ出ると、2つ目も3つ目も、、 V^^V
  ICPの待合室で知り合った90歳のご隠居さん Marty。 建築物が得意で既に個展も開いたことがある白髪の老人のその隣りには医師のJohn。 ネーチャーフォトで写歴2年。活動はコンテストが中心でランクが上がるのが何より楽しみ。 写真という共通の話題で見ず知らず同士の間に自然に話の輪が広がる。やっと気が付いた。 本日一番撮りたかったもの(でも実際に行動するところまで自分の意識を持上げられなかった)のは、このお二人のポートレートでした^^;;
  ここで講師の Karen さんがコメント。 あなたの思考と行動はフォトグラフィーそのものなんですよ。

  私達は写真が好きで好きで堪らない。とにかく24時間でも写真を撮っていたい。 たとえカメラを手にしていない時でも、潜在意識の中に写真へのPassionが渦巻いている。 そういう自分も気付かない意識をじっくりと掘り出して、人に聞いてもらう。 そうすることで自分と写真の関係が整理整頓されてくる。 そして自分は一体何を撮ればよいのか(撮りたいのか)を考える思考ルートが出来てくる。
  「何を撮るか」 、これがセミナー後、ずっと考えている事のひとつです。



  「何を撮るか」 これは永遠のテーマですね。 そしてそれは「何故写真をするのか」、「写真をやる上での自分のゴールは何か」、最終的には「自分は何なのか」、というテーマへ繋がっていくような気がします。
  ある写真家の話が紹介されました。Bruce Davidsonだったかな、メモったけど誰がどの話の人か混乱してわからなくなりました。間違ってたらメンゴ^^  その人はハーレムの街角、特に135丁目をスナップしました。 典型的な Street Photoです。
  最初は街の風景、そして行交う人、そして次第に人物に話し掛けて ポーズ写真(=posed photoは、Staged photo = 演出写真とは区別されています)を撮るようになり、最終的にはストリートで知り合った人を自分のアパートに招待して、家の中でその人達の写真を撮るようになります。 その室内の写真には窓が写っていて、窓の外は街角の風景なんです。

  この話を聞いて、私はアサカメ5月号(か6月号)の個展レビューで読んだ北島敬三さんの事を思い出しました。 北島さんは2年間ニューヨークに滞在中、街角スナップを撮り、その作品で木村伊兵衛賞を受賞された方です。 昨年「千のポートレート」という作品展を開かれたのですが、それは白い壁を背景に白いシャツを着た女性のバストアップという不思議な作品。 まるで証明写真のようで、証明写真よりも少し引いています。 北島さんのコメント 、「街角スナップは突き詰めると予定調和だと思うようになりました」
  そういえば去年飯田さんが話された中村征夫さんもStreet Photoを撮られてましたね。 陸に上った人間という生物の故郷である海に中村さんは次第に惹かれていかれたのかなぁ、、、なんて勝手な想像です^^;;

  Street Photoは偶然性に大きく依存しながら撮影した中から、自分の潜在意識の中で予定した像に最も合致調和したものを選び出していく作業なのかも知れません。 そして、いつまでもその偶然性に頼っていてどうなるのかなぁ、と思うのです。 半日時間がとれた。ブラブラ散歩するのが良いのか、全く違うアプローチでもっと意図的な撮影を試みる方が、より良い写真が高い生産性をもって撮れるのではないか、、。 そしたらそれは Street Photoとはちょっと違ってくるよなぁ、、、、x_x  考えがめぐるめぐる。

  「何を撮るか」を考えるのはもうこれくらいにします。 次は「如何に撮るか」について。



  講師の Karenさんが青空市場、ユニオンスクエアーマーケットに買い物に行った時の事、ある一人の男に気付きましたね。 なんか変な感じ。 様子を見ると、その男性は大きなカメラを持ってマーケットの様子をスナップしているらしいのですが、人にカメラを向ける事に汲々としています。 すんごくナーバスになっている。 で、気付いた周りの人も意識しはじめる。 雰囲気がどんどん不味くなってゆく。 結局、多分まだ一枚もシャッターを押せていてないだろうなという感じで、その男性は立ち去ってしまいました。
  このユニオンスクエアーは私も昔ギャラリーを作ったくらい、スナップにはポピュラーな場所です。 で、また別の日。また写真を撮る男発見。カメラをどんと構えて座りこんでいます。シャカシャカッ、シャッターが切れる。 ところがよく見ると彼の構え、なんか際どいローアングルなんです。 人の足でも撮っている?まさかXXチラ?それがすんごく堂々とした撮影ぶりで誰も気にならないし意識もさせない。 シャッターはどんどん切れていく。でもアングルは、、やっぱりキワドイぞぅ~。まさかウチの生徒じゃないだろうな(一同爆)

  Street Photoで人物を撮るという時、カメラを向けた相手とのインターアクティビティーをどう処理するか、 これはとても難しい点です。 状況に応じては相手に話し掛けたり、間を取ったり、自分も撮そうとする風景の一部になり、 でも撮影の瞬間はカメレオンのようにすうーっと自分を見えなくする。 その何とも絶妙な空間の取り方。人によって得手不得手はありますが、練習すれば誰でも出来るそうです。 で、その第一歩としては、まず自分は誰なのか、何をしようとしているのか、といった事を事前に RESOLVE (=断固と意を決しておく)事が大切という事でした。 マインドセッティングを周到に準備しておくという事ですね。



  KarenさんはICPの講師としてStreetが主な撮影フィールドになる Documentary Photo という分野を教えています。 毎年何十人という生徒が自分の下で勉強してくれるが、その後もずっと Street photoを続ける人は少ない、と寂しそうに言いました。 Street Photoだけでは食べていけないのですね。

  Street Photoで食べてる人、アンリカルティエブレッソン。やはりこの人に言及しない訳にはいきません。 World of Henri Cartier-Bressonの写真集が回されます。 (これは初めて手にする) Father of Decisive Moment、カルティエブレッソンは自分の事をフォトグラファーと呼ばれるのを拒否した人です。 と同時にカメラ機材や撮影技術についてほとんど語る事がありません。 ところが彼の作品を丹念に見ていくと各所で高度な撮影テクニックが駆使されている、とKarenさんは指摘します。 祈る婦人をフォーカスしてその前後の男性を少しだけぼかす。 動く被写体で、瞬間的に、完璧な構図で、祈る人のエモーションを強調する撮影法、驚愕すべき集中力。 Never under-estimate his technique. です。

  Street Photoをやる上でどのような撮影テクニックが他に可能なのかまた有効なのか、ここから先は私の授業を取って勉強してください! だって ^^  ガーーン。 時計を見るとちょうど2時間経過じゃ。 おおおっ、最後に、カルティエブレッソンの構図法についてちょっと教えてくれろ、という叫び声も空しく、、、授業は終わりとなりました;_;
  最後に、使用する機材については自分の体格に合ったものを選びましょう。 Karenさんはニコンを使っているそうですが、一番好きなのはウェイストレベルで撮影できるローライフレックス。 オープンな視野と相手に威圧感を与えない低い撮影位置、これかなり有効だそうです。
  あと、写真家の紹介をして頂きました。 知っておいた方がよい法律的な事も教わりました。が、メインの部分は既にお伝えした通りです。

  今回のセミナーはICPが無料で催してくれた特別の企画でした。 これからさらに詳しく勉強したい人は授業料を払ってコースをとりましょうなんて^^ まぁ、何ともアメリカ的な笑えるオチで終わっちゃったわけですが、さて皆さん、あなたもStreet Photographerに一度挑戦してみませんか?

以上です。