烈士の詞藻
                『水戸幕末風雲録』『波山始末』『藤田小四郎』『敦賀と水戸烈士の話』より抜粋〜各五十音順

 水戸天狗党時世の句
朝倉源太郎
赤き我が心はたれも白露の消にし後ぞ人や知るらん
朝倉三四郎
四方八方に薫りや充たん下野の太平山の山櫻かな
伊藤益荒
春雨にみの覆うべき方もなく今は笠間の露と消ゆらむ
梅村晋一郎
古の風に為してよ大御稜威振いて今の乱れたる世を
大谷包太郎
國の為め思ひ舍(すて)にし今日の身を我たらちねは知らすやあるらん
鹿島茂平
大君の大みこころを安めんと数ならぬ身を忘れてそ思ふ
川俣茂七郎
みちのくの木の間がくれの山櫻ちりてぞ人や夫と知るらん
國分新太郎
原と萬死を期す復た何ぞ悲しまん、只だ恨む神兵未だ夷を掃はず、魂魄帰らず天と地とに、七たび此世に生れて皇基を護らん
下野廉三郎
國の為めあはれ木の葉の軽き身を君に捧けてゆく旅路かな
瀧川平太郎
梅鉢の花の匂ひにおかされて我が身の散るを知らぬつたなさ
武田魁介
咲初めて風に散りなん桜花散ての後に知る人は知れ
武田耕雲斎
討つもはた 討るるもはた哀れなり 同し日本(やまと)のみたれと思へは
田中愿蔵
霜にそむ樹々の紅葉の錦よりいと珍しき谷の松が枝
みちのくの山路に骨は朽ちるとも猶も護らむ九重の里
土田衛平
白露の霜とかはれる今ははや君が衣手薄くなるらん
いにしへも斯かるためしを菊水の流れ汲む身となるぞ嬉しき
直本東平
降雪(ふるゆき)に何れを花と白梅の薫れる色のなつかしきかな
長谷川通之介
丈夫のつる張りこめし梓弓引つめてこそなど撓むべき
檜山三之介
来るつはめ帰る雁わするなよ又めくり逢ふ春もなき身を
平野重三郎
つくしても甲斐なき身を玉櫛笥(たまくしげ)二荒の神のいかに見るらん
藤田小四郎
かねてより思ひ染にし言の葉を今日大君に告て嬉しき
藤田秀五郎
義を論して未だ死と生とを論せず、磨き成す報國尽忠の誠、平生記し識す尊親の誡め、芳名を留取するは此行に在り
藤原重友
魁の花は嵐に散にけり風にあふべき枝ならなくに
昌木春雄
転びても弓矢はすてぬ案山子哉
山国兵部
行さきは冥土の鬼と一勝負
八木橋誠之進
惜まるる時ぞ違(たが)はぬ武士(もののふ)の潔よく行く死出の山道
米川久蔵
たとひ身は敦賀の里にさらすともなとか絶ゆへき武士(もののふ)の道
米川米吉
皇國(すめらぎ)の御為めと思へはたちたたぬ勲(いさほ)は問はん日本魂(やまとだましひ)

 大発勢時世の句
浅田忠之進
なきあとに誰か見るらむ濁江(にごりえ)の遂に澄むへき時なからめや
天野朔之介
朽もせし色も変らし武士(もののふ)の道に染たる赤き心は
有賀半蔵
事しあらは火にも水にも入はやと思ひ定めし身は君の為
飯田忠四郎
君か為思ふ心をます鏡何か曇らむ後の世まてに
飯村辰五郎
古郷を思ふは旅の常なれど國の為には名こそおしけれ
江橋五衛門
今日までは盛の花と思へとも明日の嵐は知らぬ世の中
大内誠蔵
君かため國のためにと盡(つく)し来し身のいかなれは仇となりけむ
大賀甚蔵
君のため盡(つく)せる臣の眞心をこは誰人のへたてなるらん
大津主殿
渡り来し加茂の川浪思立つ心は朽ちし後の世まてに
大森道義
淡雪と共に消行く老の身に君が八千代を祈らるるかな
大山又三郎
いさぎよく散るへかりける世の人に惜まれてこそ花にさりけれ
岡田捐蔵
大丈夫(ますらを)の伴うちつれて君か為はかなく越ゆる死出の山路
岡部藤介
せめてはと思ひなからの橋柱渡(はしばしわた)りもあへす朽果むとは
岡見徳三
朝顔の日影まつまの露なれは心と堕て玉と砕けむ
岡見留二郎
世の中の憂(うき)をは舍(す)ていささらは死出の山路の花をなかめん
興野介九郎
一人ゆく死出の旅路の露けさを哀といはん人たにもなし
小山田任之介
たとへ身は今此里にうつむともなに撓(たゆ)むへき日本魂(やまとだましひ)
柿栖次郎衛門
今更に何か惜まん兼てより我身なりとは思はさりしを
樫村雄之允
秋の野の露と吾身はきえぬとも増荒武男(まらたけを)の名をは汚さし
倉次金次郎
徒(いたづら)になりし思の悲しさを誰てふ人にかくと語らむ
栗田八郎兵衛
我仰く君が御影のうつつにはあはれ見ぬ夜の夢となりにき
齋藤好次郎
秩父山吹おろす風の烈しさに散るは紅葉と吾となりけり
齋藤左右吉
秋の野の花に結へる露の身の赤き心を世にや留めん
榊原新左衛門
君がため思へは斯くも鳴海潟時雨にしほる袖の露けき
太宰清衛門
武士(もののふ)の道は違(たが)はし何(い)つの世に何(いづ)くの野辺の露と消ゆとも
舘鐵太郎
数ならぬ身にはあれとも國のため盡(つく)す心は神や知らさむ
立花辰之介
君かため死ぬる吾こそ嬉しけれ名も立花の世に薫らまし
谷鉄蔵
人々と契りしことは渝らしな死出の山路の今日の魁
床井庄三
玉の緒はたゆともいかて忘るへき代々に餘れる君か恵を
富田三保之介
曇りなき神の社の増鏡よしも悪きも照してそ知る
那須寅三
今はとて死出の山路を急く身に思(おもひ)おかるる君か御代哉
成瀬廣之介
國の為越えなぬ人に先立て死出の山路をわれふみわけむ
成瀬與衛門
君か為誓ひし人に先立て迷ふ旅路に今やいてまし
沼田久次郎
一筋に張りし心は梓弓なに弛ふへき苔の下まで
野上大内蔵
ゆくききはいつれ野末のひとつ石
野崎留之介
まが罪に沈み果とも二つなき我眞心は神そ知るらん
萩谷平八
見よや人見よや心の花の露にかかる涙も皆國のため
塙又三郎
勇ましく散へかりけり世の人に惜まれてこそ櫻なりけり
林忠左衛門
今日迄も誰が為なれば長らへて憂き身にうきを重ねきつらむ
肥田金蔵
哀れともいはむかたなき賎(しづ)か身は花よりもろき朝顔の露
平方金五郎
後れしと心に思ひしかひありて死出の山路の今日の前かけ
福地勝衛門
君かため盡(つく)す心のます鏡くもらぬ御代の光りとやせむ
堀川元了
身は此に朽果(くちはつ)ぬとも皇國(すめらぎ)をあら人神となりて護らむ
松平頼徳
思ひきや野田の案山子の竹の弓、引きもはなたで朽果てんとは
水野哲太郎
草の葉にをく露よりも脆き身の君が千歳を祝ふはかなさ
三木孫太夫
吹(ふき)かはる風の心の烈しさを人に知らせて散る櫻かな
武藤善吉
世の様(さま)をみをやの君に申さんと今日急かるる死出の山路
森三四郎
つらしとし憂(うき)しともいはて國のため消えなぬ時を松の下露
安蔵源二郎
生替り死替りても國の仇討(あだうた)すは止まし日本魂(やまとだましひ)
吉田於莵三郎
神のます高天の原にいさ行て常磐堅磐(ときわかたわ)に君を守らん

 水戸天狗党が敦賀幽囚中に詠んだ句
大和田外記
二兄國に循し親は縛(ばく)に就く、二弟今日梵中に屈す、楊柳知らず別に恨あり、依々として猶ほ自から春風に媚ぶ
瀧川平太郎
夷(えみす)うつ功もとげず徒(いたづ)らに送る月日のかし惜しと思ふ
敷島の大和心を盡(つく)しても仇となる世をいかにしてまし
雲の上の人に見せばや春雨につる賀羽衣ぬれし姿を
賎が夫の柴刈鎌のつかの間も大和魂みがく友人
武田魁介
獨り高樓に上って八都を望む、黒雲散し盡(つく)して月輪孤なり、茫々たる宇宙人無数、幾箇の男児是れ丈夫
武田耕雲斎
丹心憂國の士、断髪夷風を学ぶ、此意若し人問はば、剣を按して碧空を望む
武田彦衛門
嘗(かつ)て聞く蠻夷我彊(ばんいわがけふ)を窺ふ、書生豈(あ)に徒に文章を事とせん、
孤燈(ことう)影暗くして人眠る後、獨り拭ふ腰間(えんかん)三尺の霜
藤田小四郎
尊皇攘夷萬天を貫く、國家を安ぜんと欲して眠る能はず、聞説世人忽(たちま)ち恐怖す、奸を屠る只是れ節々の鞭

 大発勢が幽囚中に詠んだ句
伊藤田宮
先立て露と消えにし人の身を思へはやすき草枕哉
大窪又一郎
何事もいはての森の下紅葉赤き心は人やしるらん
梶清次衛門
いささらは涙くらへむ子規(ほととぎす)我も浮世に鳴かぬ日そなき
加藤忠五郎
かねてよりかくとは知りつ國のため今更いかで身を惜むべき
木村圓次郎
春たてはいとと思ひの増鏡世の花鳥の面影もかな
榊忠兵衛
富士の嶺の雪さへとくる時もあれは世の浮雲のはれすやはあらぬ
下野隼二郎
梅の花咲ける軒端は変れとも色香は共に雪をしのかむ
永井量蔵
月影は昔なからのものなれと吾身の上は照らさざりけり
根本清一
あはれ身は行方しら浪こく船のはてむ湊もなくなりにけり
平戸喜太郎
玉鉾の直(すぐ)なる道を一筋にふみな違(まよ)へそ大丈夫(ますらを)の友
福地政次郎
東路の我ふる里に茜さす日和の山は忘るまそなき
眞木彦之進
去年(こぞ)の冬刀根の川路をさまよひて今日は如何なる旅やするらむ
増子謙蔵
怨みても甲斐やなからぬ山風に吹れておつる木々のもみち葉
師岡亀之介
異國にたくひもあらぬ櫻こそ我日の本の匂ひなりけれ
門奈三衛門
便りなき身のうき舟に山櫻ちりくる花の心ゆかしも

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