朝日「極左記者」とNHK「偏向プロデューサー」が仕組んだ


「魔女狩り」大虚報


 最初から「政治介入」ありきの糾弾姿勢は、まるで中世の「魔女狩り」そのものだった。朝日新聞が、安倍晋三代議士らによるNHK番組への介入問題を報じ、世上を騒がせたのはご承知の通り。が、その記事たるや、事実確認を尽くさないお粗末極まりない代物だった。この茶番劇を演出したのは、二大メディアの「極左記者」と「偏向プロデューサー」。世紀の大虚報はいかにして仕組まれたか──。

「NHK側が説明に来るまで、私は問題の番組の詳しい内容や放送日時は一切知りませんでした。別件で面会に来たNHKが、自ら進んでこの番組の簡単な説明をしたので、私は公正・中立にやって下さい″と言ったまでです。しかし、今では公正・中立に″と言ったこと自体が政治的圧力だといわれている。私や中川代議士が事実と違う″ときちんと主張した後は、拳を振り上げた人たちが因ってしまい、議論を摩り替えている状態なんです」

 朝日新聞の報道に端を発した一連のバッシングに反論するのは、今やNHKに政治的圧力をかけた「元凶」扱いされている、自民党の安倍晋三・幹事長代理である。確かに、こんな批判がまかり通るなら、政治家はマスコミに意見さえ言えないことになる。まさに最初に政治的圧力″ありきで、事態は「魔女狩り」そのものの様相を呈しているのだ。



 まずは、今回の大騒動の経緯をおさらいしておこう。市民団体が都内で民衆法廷「女性国際戦犯法廷」を主催したのは二〇〇〇年十二月のこと。これは従軍慰安婦問題につき、昭和天皇や日本政府の犯罪を裁くという模擬裁判だ。問題は、これを扱った二〇〇一年一月三十日のNHKの番組である。

〈安倍、中川昭一両代議士が一月二十九日にNHK幹部を呼びつけ、番組について中止を要請したり、修正を命じる介入を行った〉──。

 こうした内容を大々的に報じたのは、一月十二日付の朝日新聞だった。この報道と軌を一にするかのように翌十三日、NHKの現職チーフ・プロデューサー、長井暁氏(四十二)が異例の告発会見を敢行。彼は、当時、この番組を担当したデスクだった。長井氏の話の概要は次の通りだ。

〈放送前日、中川氏らに呼ばれ、NHKの幹部二人が呼び出されたと認識している。その後、番組の手直しが行われた。これは今、考えて、中川、安倍両氏の意向を反映し、了承を得るための作り変えであったことは間違いのない明白な事実であろうと思う。放送後、信頼できる上司から、安倍、中川両議員から呼び出され.放送中止や改変を求める圧力があったと問いた〉

 会見の終盤では、言葉を詰まらせる場面も。

〈私にも家族がある。四年間悩んできたが、事実を述べる義務があると決断した〉



と、涙ながらの訴えとなったのである。記者の中には感銘を受け、拍手を送る者も少なくなかった。

 こうした動きを受け、安倍氏らに対し、「政治的圧力だ」「不当な事前検閲だ」などとブーイングの嵐が吹き荒れたのである。野党も早速、両代議士の国会招致を求める始末だ。

 ただ、前記の内容を見ればお分かりの通り、長井氏が告発する政泊家の介入部分は全て伝聞。〈間違いのない明白な事実であろうと思う〉といった、難解な表現さえ見られた。が、「NHK=恵」といった図式の今、海老沢会長批判も含めた、現職職員の告発は勇気ある行動と受けとめられたのである。涙の力も手伝って、事実確認で疑問を感じた記者も突っ込んだ質問は行い難い状況だったという。

シナリオありき

 むろん、事実無根で「魔女」扱いされた側は黙っているわけにはいかない。安倍、中川両代議士は介入を真っ向から否定。中川氏にいたっては、スケジュール帳や事務所の面会記録等で確認した結果、NHK幹部との面談は、番組放送後の二月二日であることが判明したのである。事前検閲は物理的にあり得なかったのだ。

 NHK自体も調査の結果、両代議士に呼び出された事実はなく、中川氏についても面談は二月二日だった事実を公表した。



 こうした反証に対し、朝日新聞側は十八日になって、取材の経過まで紙面で公表したが、安倍、中川両代議士とNHKの主張を覆すだけの新たな証拠も提示できず、「焦点はNHKと政治との距離」などと、議論のスリ替えに必死。焦点はもちろん「政治介入があったかなかったか」に決まっている。スクープ記事と持ち上げられた記事は、わずか数日でメッキがはがれ、空前の大虚報であったことが白日のもとに晒されたわけである。

「一月十日に電話で話したが、四年前のことを急に開かれても、調べる材料がない。模擬裁判の番組の件でNHKの人間と話をした記憶はありましたので、そう答えた。ただし、時期については分からない″としか言っていない」

と、憤るのは当事者の中川昭一・経産相だ。

「そんなやりとりの中で、私がそうだったかもしれない″と返答をした部分を、放送前の面談″という質問と結びつけ、向こうが描いたシナリオ通りに記事にされてしまった」

 まさにシナリオありき。どうしてこんな茶番劇が展開されてしまったのか。

 安倍、中川両代議士を取材するなど、件の記事で主導的な役割を果たしたのは、本田雅和なる記者である。この本田記者、市民運動などの世界ではちょっとした有名人なのだ。



「彼は、人権、安保問題一筋できた記者で、大量の署名記事を書いています。フットワークが軽く、アフガニスタンやイラクなどにも取材に出かけていました」(朝日の同僚記者)

が、彼を有名にしているのは署名記事の多さだけではなく、著名人との関わり″も注目を集めたからだ。

「進んで、有名人に議論をふっかけにいくんです」

 その最たるケースが、作家の筒井康隆氏とのバトル″だった。教科書にも採用されていた筒井氏の小説の中に、てんかんの人への差別を助長する部分があると、『日本てんかん協会』が指摘し、教科書からの削除を要求。これを筒井氏が拒絶し、ついには言葉狩りに対し「断筆宣言」を行った事件″といえば、ご記憶の方も多いだろう。

「本田氏はこの問題について朝日の紙面で筒井氏にインタビューを行った。といっても、インタビューというより、最初から批判的で、相手に自分の意見をぶつける論争のようでした。筒井氏が小説が、タブーなき言語の聖域となることを望んでやまぬ″と書いているのに対し、本田氏が作家は特権階級ですか″と食ってかかる場面もあった」(同)

 しかも、その後、彼の燃えさかる闘争本能は、「ゴーマニズム宣言」で有名なあの人気漫画家、小林よしのり氏にまで及んだ。



小林氏の皇太子殿下のご成婚をめぐる漫画が、連載中の雑誌でボツになったことがある。が、これが同じ版元から刊行された単行本で復活したことを受け、「読者に説明を果たしていない」と噛み付いたのである。

「本田記者の印象は、とにかく思い込みが激しい人。エキセントリックで、常に断定口調です。相手を悪″と決め付けたら、徹底的に自分の主張を押し付ける。ワシと会ったときも、差別は経済構造だ″と主張し、作家が金儲けのために本を出すことを否定していた。初めから結論ありきで、取材するタイプです。別の角度から検証するという、記者として当たり前のことをしないんですよ」

と論評するのは、戦火を交えた小林氏である。

「極左記者」

 ちなみに、ボツになったことについては、小林氏は翌週号で経緯を説明しており、その後、版元との話し合いを重ねた結果、単行本での収録にこぎつけたのである。

「そうした経緯を調べもせず、本田記者は、ワシを批判してきたんです。その時の彼の言い分は、作家なら、自分の原稿がボツにされたのであれば、記者会見して、『自分はおかしいと思う』と言うべきだ″というもの。そこで、ワシは怒って、それまでの経過を全部説明してやった。



すると、慌てて、今後はよく勉強してから、人を非難するようにします″と謝ったんですよ。ワシへの誤解を面と向かって説明したので、彼も分かってくれたのですが、今回も全く同じ事をやったわけでしょう。進歩がないというか、成長がないというか・・・・・・」

 さらに続けて、

「本田記者は典型的な左翼ですよ。極左といってもいい。国家や資本主義は悪で、権力を批判することこそが表現の自由だと考えているんです。今回の記事にしても、安倍氏や中川氏は対北朝鮮強硬派です。経済制裁論議などを目前に控えた今、何とか二人のイメージを落とそうと考え、わざわざ四年前の出来事を出してきたのだと思います。もともと朝日は、故・金日成主席とのインタビューを行ったり、北朝鮮の帰還事業を後押しした過去があるだけに、北朝鮮が崩壊すると、困るのでしょう。だから本田氏のような極左記者を自由に動かして、ああした記事を書かせているのではないでしょうか」

 これに対し、朝日新聞の広報部は、

「特定の政治家に対する攻撃や他の意図をからめたようなことは一切ありません」

が、元産経新聞論説委員で、帝京大学教授の高山正之氏は言う。



「本田記者は伝統的に朝日に流れる体質を受け継いでいるのだと思います。あの本多勝一氏がいなくなれば、新たな本多氏が生まれてくる。それが今回の本田記者なのでしょう。朝日においては、彼だけが極左なのではありません」

 では、この本田氏と共同歩調を取った形のNHKの長井氏はどういう人なのか。

「彼は東京学芸大学教育学部出身で、専門は中国や東アジアの現代史でした。学生時代、中国に留学経験もあり、中国語が堪能です」

 と、NHK関係者。

「これまでに、NHKスペシャルで、『四大文明』や『街道をゆく』などを手がけており、現場ではスキル(技能)があると評価されています。昨年、チーフ・プロデューサーに出世しましたが、同期では二番目の早さと開きました」

が、この長井氏、局内では別の評価もあるようだ。

「仕事はできるのですが、作るものが偏りがちなんです。彼の手がけた作品に、『毛沢東とその時代』という番組があったが、これは放送当時、一部の識者から、トーンが基本的に毛沢東礼賛。中国側の政治的方針に迎合しており、大問題だ″などと批判されたことがありました。



そのため、それまでNHKに登場していた中国問題専門家の中には、以後、出演しなくなってしまった方もいます。つまり長井氏には、過去に偏向番組を作った前歴″があるんですよ」(別の局関係者)

 涙の告発会見でついつい同情的になりがちだが、客観的な日で評価する必要がある。今回の朝日の誤報は、極左記者と偏向プロデューサーの共同制作″によって仕組まれたものというのが実態のようなのである。

実態は政治ショー

 そもそも、不偏不党、公正・中立を旨とするNHKが「女性国際戦犯法廷」を取り上げたこと自体が問題だった。この民衆法廷、開催の趣旨に賛同するという旨の書面に署名しなければ、傍聴が認められない、閉鎖的で思想的なものだった。

「しかも、法廷″と名がつきながら、被告のための弁護人もいない。今時、中学生のする模擬裁判でも弁護士を置いているのに、法廷の本質的な部分が欠けたお粗末な裁判でした」

 というのは、実際に法廷を傍聴した秦郁彦・元日本大学教授(現代史家)だ。



「会場に千人ほどの人が集まっていましたが、昭和天皇と日本政府に有罪判決が言い渡された瞬間、皆、立ち上がり、拍手が鳴り止まない異様な状態が続きました」

 元慰安婦とされる女性達の証言は反対尋問も経ず、証拠に基づく検証は一切なし。最初から有罪判決ありきで、実態は市民団体による偏向したシンポジウムに他ならず、完全な政治ショーだったのである。

 さらに付言すれば、法廷には検事役として、二人の北朝鮮の工作活動家が参加。北朝鮮の元従軍慰安婦とされる女性の被害を強調するプロパガンダを行っていたのだ。こんなものをNHKが、主催者の意向に沿う形で取り上げられる筈がなかったのである。

 こうした本質が議論されず、また事実調査も尽くされないまま、「政治的圧力」が既成事実のように一人歩きしてしまった。現に、十六日のテレビ朝日の『サンデープロジェクト』では、司会の田原総一朗氏や出演者から安倍代議士に対し、一方的な発言が飛んだ。日く、

「安倍さんが一議員ならいいんだが、当時、官房副長官であり、次の時代を担う人だから、こういうNHKと政治の問題はすっきりしないといけない」



「李下に冠を正さずで、政治家にも、権力を持っている方の言動というのを意識していただきたい」 「公正・中立にお願いします″と意見を言ううこと自体がすでに問題」

 などなど。本当に「政治介入」による「事前検閲」があったかどうか、事実確認を尽くす姿勢はもはやどこにも見られないのである。

 最後に安倍代議士が言う。

「これまで北朝鮮問題などで、報道姿勢を批判しつづけてきましたから、私のことが憎いのは分かります。だからといって、しっかりした裏付け取材もせず、捏造とさえ呼べるような報道は厳に謹んでもらいたい」

 安倍代議士たちは、まさに狙い撃ちで「魔女」にされてしまったのである。

 「週刊新潮」一月二十七日号より