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北ローヌ
date
9/13-9/16

 


リヨンからさらに南へ下るといよいよローヌ地方です。風の匂いまでが太陽と焼けた土の粒を含んだようで心を揺さぶります。コンドリュー、コート・ロティ、エルミタージュ、はじめての街を訪れるのはいつだって胸が躍ります。この日は午後3時にシャプティエのアポ。地図ひとつで、迷わずたどりつくのがいつもながらすばらしい私達!東京で一度、マーク・シャプティエさんのセミナーに参加していますが、今日は案内のマドモアゼルにビデオを見せてもらい、話を伺い、9種類のテイスティング。サンジョセフ、エルミタージュ・ブランに続いて赤はクローズ・エルミタージュ、サンジョセフ、エルミタージュ、コートロティ、パプと次々出され、specialは98年のLe'pavillonとL'ermite。どちらも新樽で16-18ヶ月熟成させた長熟タイプで30年から40年は持ちますので、今はまだタンニンがギシギシです。最後は私の大好きな天然甘口ワインのミュスカとバニュルス91年。後者はポートワインのような味わいで澱がいっぱいです。ローヌ最初のワイナリー訪問は強烈な若いシラーの攻撃でした。みんなフラフラになりましたが気をとりなおして外にでると、エルミタージュの街のなんとかわいらしいこと。静まりかえった小さな路地をのぞくとユトリロの世界です。蕩々と流れるローヌ河に見とれたスタートです。
ヴィエンヌから更に南へ10キロほど入ってたどり着いたChonasではなんとも素敵なオーベルジュに泊まりました。ミシュランのひとつ星レストランを併設した田舎のホテルDomaine de Clairefontaine。広い庭と白い建物、ホテルはこじんまりとしてセンスよく、いかにもフランスのオーベルジュ。インテリアもシンプルでしかも暖かみがあり、心からくつろげる静かな宿。犬連れで泊まる人も多く、さりげないサービスがとても気持ちいい。こんなホテルを探してくれるなんてNishimuraさん、ナ〜イス!この日のディナーはこのすばらしいレストランにて。
シャンパンの後、アンドレ・ペレのコンドリュー・コトー・ド・シェリー、シャーブのエルミタージュ・ブラン、Jean-Luc-Colomboのコルナス、ギガルのラ・ムーリン84年、そして最後にシャンパーニュのホテルでM氏が購入したオーブリオンの何と1931年!!これは持ち込み。ちっともちっとも枯れてない!70年も経過して蘇るふくよかな味わい。これは至福のよろこび。すばらしいレストランなので、いづれ星付きの方でゆっくりレポートしますね。
翌日はGUIGALを訪問です。父、エチエンヌのあとを継いだのはマルセルが18才の時。案内のジョルジュ氏の丁寧でしかも暖かい歓迎を受け、セラーを見学の後、99 年のコンドリューと97年のコートロティBruneをテイスティング。最後はなんと Turque 97年を樽から飲ませていただきました。濃厚で深みのあるタンニン。引き締まった果実味の中にふくよかさがあります。まだまだ瓶詰めまでには時を要しますが暖かい旨味が感じられます。大物の貫禄がすでにあります。Syrahの他Viognerが7%入っています。4000本のみの生産で来年の2月に瓶詰めするそう。華やかなワインです。思わずJ'aime beaucoup ca!というと Moi aussi.ジョルジュ氏曰く、95、85は特にすばらしい。96、97もGoodとのこと。Chateau d'Ampuiはギガルにとって欠かせない名前。ムーリン、ランドンヌ、トゥルクと並んで大樽が静かに眠っています。向かいの山の看板の下がTurqueの畑ということで、急斜面を登り完熟シラーの試食となりました。とにかく登るだけでもひと苦労の急勾配。排水にしても剪定にしても機械が入れる場所とは思えません。なのに一本一本ていねいに手入れされているぶどう達。すべて手作業で作られる実に手間のかかったワインです。生産量の少ないのも納得ですね。宝石のような一粒がまた甘い!感服。
3日目はコンドリューの作り手、ドメーヌ・モンテイエとコルナスのジャン・リュック・コロンボを訪ねました。モンティエは走っても走っても建物らしきものもなく、まさかこの先にドメーヌがあるのかしらと不安になるほどの山の中。はるかになだらかな山々を望む丘の上の一軒家。農家のような入り口にリゴッタチーズあります、の看板。あ、ここだ、ここだ!よかった!見つかった!と一同ほっ。この日は viognerの収穫日にあたり、醸造家のステファンは大忙し。代わってママが対応してくれました。おおらかで、底抜けに明るい南仏のおっかさん。ここで待ってて!と案内された広々したお庭は山羊の放牧場でいたるところ山羊のふんだらけ。大きな声で笑いこけながらあちこち走りまわるママのあとをシェパードのサムが追いかけ、もうてんやわんやです。山羊を飼って、あのチーズ Rigotta de Condrieuを作ります。ステファンはハンサムでしょ、とママの息子自慢。サンジョセフ白、コンドリュー、Cuvee du Papy 98 とCote-Roti Granma をいただき、チーズも試食。真っ白なナチュラルとカビのついた熟成タイプ。どちらも絶品。特に熟成したシェーブルとコンドリューの相性は最高のマリアージュ。これまた至福の時でした。
さて次はいよいよJean Luc Colombo 氏とのアポ。畑を見て、テイスティングをして、一緒にディナーをというちょっと緊張の訪問です。コロンボ氏はもともとプロヴァンスの人でエノロジストとして活躍していましたが、コルナスという地とテロワールに感動を受け、自分で畑を買い、有機農法的考えを活かし1989年からコルナスでのワインづくりを始めました。よいワインを作るためには畑の手入れをしっかりし、収穫量を落とし、科学肥料を与えず自然的に強化していくという、当たり前のことを唱えたのですが、昔からの作り方に固執した古いローヌの生産者たちからの反感もありました。若くまた頑固ものでもあったし、ローヌ全体の封建的な醸造法に対してアンチテーゼを呈したことで変人扱いされたこともあったそうですが、今では認められローヌのエノロジストとしては最も影響力を持つ人のひとりになったと言われています。
コロンボ氏にお会いし、彼の4WDでLes Ruchets 、La Louveeなどの畑を見せていただきました。オオカミのラベルの La Louveeは70才の樹齢。畑は急斜面で、その表面は薄茶色の、ぎゅっと握るとポロポロと砕ける砂利のかたまりのような土で覆われています。コルナスはそれほどタニックなワインではない、凝縮されてはいるが決してゴツゴツしたワインではない。ソフトでポリフェノールが多い。説明をしながら、畑のぶどうたちに何度も目をやるコロンボ氏のまなざしはどこまでもやさしく、とにかくぶどうを大切に、愛おしんで手をかけている、というのがよくわかりました。
  

いよいよ、家に入ってテイスティングとディナーです。知的な奥様、広報担当のギー。犬のオーブリオン、猫のミューオも顔を出し、楽しい夕食。メニューはご本人がマルセイユで釣り上げてきたというまぐろ一匹。これをずばり輪切りにして暖炉で焼くという男の料理です。日本びいきのコロンボさんは「一番」の前掛けにお箸のおもてなし。次から次へとワインを開けてくれてワイン談義が続きます。テラコッタの床にオーブリオンが控え、暖炉が赤々と燃えるリビング。庭からはコルナスの街の光と夜のローヌ河が見渡せ、星空の下、最高のひとときを過ごしました。信じたポリシーを曲げることなく、独自のワイン作りに熱い情熱を注いで、充実の時を迎えているコロンボ氏はとても素敵。みんな、すっかり打ち解けて、楽しい宴はなんと12時すぎまで続いたのでした。