IN&OUT

ディスクレビューです。時々音楽以外のものにも触れます。

2002.05.22

・HAPPY END PARADE〜tribute to はっぴいえんど〜(VITOR,CD.2002)
 奇しくも同時期に2種類リリースされる「はっぴいえんど」トリビュート。こちらはメンバーも様々な  かたちで関わっているメジャー版。存在をどう受け止めるか、そこがトリビュートのキモだと思うのだ  が、原曲にほぼ忠実に演っている場合でも、例えば慈しむように歌う曽我部恵一からは、最早はっぴい  えんどという対象を超越し、音楽或いは人生への愛情のようなものを感じるが、MY LITTLE LOVERには、  「カバーしてみました」というお手盛りな印象しか感じられない。こういう温度差(距離感)が如実に  感じられるという意味では興味深いコンピレーションと言えるだろう。個人的にはそんな中を飄々と  すり抜けていく青山陽一(+鈴木茂)や、余裕の横綱相撲で押し通すオリジナルラヴ(+ジム・オルー  ク)、卑怯な宴会芸で逃げ遂せた(P-FUNK!!)くるりに座布団1枚、というところか。  ■■■□□

・laura nyro/live the loom's desire(ROUNDER,CD,2002)
 1993,94年にボトム・ラインで行われた最後のニューヨークライブを収録した2枚組。本人のピアノ  弾き語りを数名のコーラス隊(ハーモニーアレンジは彼女が手掛けている)がサポートするという、  異色ながら、彼女の音楽には最良のシチュエーションを堪能することができる。「新曲」と紹介され  る2曲"Angel In The Dark","Gardenia Talk"には完成版(昨年同レーベルからリリースされた"Angel  In The Dark")と微妙な違いが見られる。こういう音源が発掘されるのは非常に興味深いことだが、  同時に、彼女の不在を思い複雑な気分になるのも事実である。  ■■■■■


2002.05.06

・Norah Jones/come away with me(BLUE NOTE,CD/2002)
 ブルーノート期待の新人のアルバムは、所謂ジャズというより往年のシンガーソングライター幻の名盤  復刻、と言われても信じてしまうくらい既知感タップリの、実にソングオリエンティッドな仕上がりに  なっている。かすかに感じられるカントリーフレイヴァーが逆に今時の作品と言えなくもないが、そこに  求道的な側面はなく概してMORな手触り(そこが往年のシンガーソングライター的な所以だが)。これは  アリフ・マーディンの手腕によるところが大きいのだろうか。個人的にはこの手の作品が(実際の解釈は  どうあれ)「ジャズ」として世に出るのはいささか疑問が残る。内容が非常に素晴らしいだけに、これが  「ポップス」として流通しないのは如何なものか、と。  ■■■■□


2002.05.03

・"leaves from the tree" a tribute to the music of peter gabriel(VITAMIN,CD/2001)
 ありそうで無かったピーター・ガブリエル(PG)トリビュート盤。PGの楽曲の持つアンビエントな部分を  クローズアップしたと思しき全体の基調は、なるほどと思いこそすれ、オリジナルを凌駕するものでは  ない。リズムへの執着をみせる3rd以降のカバーが殆どだが、軒並みそれらの解釈が消化不良に終わって  いる(原曲の呪縛から逃れられていない)ことが、オリジナルの完成度の高さを逆説的に証明している。  そういう意味では"Exposure"は興味深い出来(2ndのカバーということも重要)。ジョディ・ワトリ−も  1曲Vo.で参加。  ■□□□□

・"sexykinkyjazzysmooth" tribute 2 prince(VITAMIN,CD/2001)  こちらはプリンスのトリビュート盤。ジャズ、ブルース系のミュージシャンが殿下の楽曲をカバーして  いる。過去何枚かあったトリビュートの中では一番狙いが定まっている訳だが、ドンピシャなだけに  物足りないというか、この人の曲を真面目に演って何が面白いのか?という基本的な疑問にブチ当たる  のも事実。プリンスが演ってこそプリンスの曲、ということがあらためて認識出来るという意味では  本盤の価値はあるのかも知れない。ハードコアな原曲をジャズに再構築した"Hot Thing"が白眉か。  ■□□□□


2002.04.29 ・MUSIC FROM THE MOTION PICTURE SOUNDTRACK "BIGBADLOVE"(NONESUCH,CD/2002)  アメリカでは3月に公開されている映画のサントラ盤。R.L.バーンサイドやT-モデル・フォードなどの  デルタ・ブルースが主体となっている中にトム・ヴァーラインとクロノス・カルテットの共演が違和感  なく収まっているのが何ともノンサッチ的というか、『オー・ブラザー!』とは違った視点を感じる。  注目のトム・ウエイツ新曲2曲は、近年のオーバーディストーション気味な作風ではなく、アサイラム  時代をも彷佛とさせるもの。でも実はスティーヴ・アールのエミルー・ハリス提供曲の本人バージョン、  個人的にはこれが一番ツボに嵌った。  ■■■■□

・CASSANDRA WILSON/belly of the sun(BLUE NOTE,CD/2002)  現在のブルーノートのスタンスを象徴する女性アーティスト3年振りの新作は、故郷であるミシシッピ  ・デルタでの録音。音もよりブルージーではあるが、傑作アルバム"New Moon Daughter"('96)や"BLUE  LIGHT'TIL DAWN"('93)を例に出すまでもなく、彼女の根底にあるものは何も変わっていない。唯一変化  があるとすれば、全編に漂う、思わず頬が弛んでしまうようなリラックスした雰囲気だろうか。前作  "TRAVELING MILES"('99)もそうだが、本人プロデュースになったことでクレイグ・ストリート製作の時  のようなシリアスとも言うべき緊張感から解放され、それが良い結果を生んでいるのかも知れない。  ただ、そろそろ少し違った展開も期待したいところだが。  ■■■■□

・jubilant sykes/wait for me(SONY Classical,CD/2001)  クレイグ・ストリート製作によりロックやブルース等を独自の解釈でカバーしている。というとカサン  ドラ・ウィルソンを連想する訳だが、こちらはもう少しクラシック寄りのアプローチ。ボーカルの中性  的な部分など、ミシェル・ンデゲオチェロ"BITTER"('99)を彷佛とさせる部分もあるが、ミシェル…の  猥雑な感じが彼には稀薄で、そこが物足りなくもある。南部臭漂う"GOD ONLY KNOWS"のカバーを含む。  ■■■□□


2002.02.26 ・PLUSH/FED(P-VINE,CD/2002)  リアム・ヘイズのソロプロジェクト、プラッシュの約4年振りのフルアルバム。前作でのニルソン/ニュ  ーマン然とした繊細な弾き語りが印象にあると、この「R&Bを歌うジョージ・ハリスン」な佇まいには  正直驚いてしまうのだが、過去数枚リリースされているシングルからもこのスタイルこそが彼の望むもの  だということは想像がつくし、何よりもここでの彼の「情けなくも力強い」声にすべてが表れている。  シカゴ系ミュージシャンを核とした分厚く深みのある演奏も特筆もの。  ■■■■□
2002.02.19 ・Great 3/When you were a beauty(TOSHIBA EMI,CD/2002)  録音、ミックス、プロデュースをジョン・マッケンタイアが手掛けた注目の6作目。シカゴ人脈との  完全コラボレートな本作の方がミックスのみの前作"May and December"(2001)より「いかにも」感が  薄いのは、片寄ソロも含む過去2作から得た自身の表れだろうか。雰囲気は全く異なるものの、ふと  近年のプリファブ・スプラウトを思い浮かべもしたが、共にその流麗さが仇となり、ともすれば何も  残らないという危険性を孕んでいるのも事実。もう少しケレン味が欲しいというのは贅沢だろうか。  ■■■□□
2002.02.15 ・music from and inspired by the motion picture "i am sam"(V2,CD/2002)  日本では6月公開予定の映画のサントラ盤。全編ビートルズのカバーで構成されているが、参加して  いるメンツが異色。ルーファス・ウエインライトとチョコレート・ジニアスが一緒に収録されている  CDなんて今後あり得ないのでは?比較的オリジナルに忠実な解釈(ベン・ハーパーが実にチャーミン  グ)の中で、"Revolution"を脱力ギターポップで演奏するグランダディの存在は良い意味で浮いて  いる。場末のラウンジ歌手のようなニック・ケイヴの"Let It Be"にも思わず腰くだけ。  ■■□□□ ・RICKIE LEE JONES/live at red rocks(EPIC,CD/2002)  リッキー・リー、初のバンド編成によるライブ盤。選曲の半分が"Flying Cowboys"(1989)からという  ことで当時のツアーと推測されるが、何故今リリースされるのかは謎である。しかし、ライブが連想  し辛い作品だけに個人的には興味深く聴くことが出来た。1曲収録されているライル・ラヴェットとの  セッションはもっと聴いてみたい。最後のヴァン・モリソン"Gloria"のカバーは、バックの演奏と彼女  が今イチ噛み合っていないようで、何だか不発気味に終わっているのが残念だ。  ■■■□□
2002.02.13 ・Sam Phillips/Fan Dance(NONESUCH,CD/2002)  サム・フィリップスの5年振りの新作は何とノンサッチからのリリース。フォーク/カントリー色が  濃くなっているのは別に夫君Tボーン・バーネットの影響という訳ではないだろうが、ノンサッチの  中心人物、ビル・フリーゼルの諸作ほどアメリカーナな色あいが出ていないので、この手の作風に  慣れない人にも聴きやすい。ヴァン・ダイク・パークス、ギリアム・ウェルチ等が参加。  ■■■□□

・Garth Hudson/The Sea To The North(Dreamsville,CD/2001)  ザ・バンドの異能の人、ガース・ハドソン初のソロアルバム。一見奇妙だが多分に想像力をかき  立てられるこのサウンドは昨今音響系と呼ばれる音楽に比肩し得る、いや、遥かにそれを超越する  ものだろう。名ライブ盤"ROCK OF AGES"(1972)でのあのグニョグニョのオルガンソロは、そのまま  本作1曲目に繋がっている。とにかく凄いアルバムだ。  ■■■■□
2002.02.07 ・イッセー尾形&根本要/対談集 -歌ネタについて-(PONY CANYON,CD(非売品)/2001)  イッセー尾形の歌ネタ(彼のネタの中で歌と演奏で構成されるものをこう呼ぶ)ライブのビデオ購入  特典で、ライブ当日は幕間で流されていた。大のイッセーファンというスターダストレビューの根本  要氏が各ネタに対して行う的確な分析を飄々とすり抜けていくイッセーさん、という構図が対談の  ようなコントのような。中の1曲を根本氏が歌う(これがスタレビよりもスタレビっぽく聴こえる!)  というサービスも。  ■■■□□ ・Jill Scott/experience:Jill Scott 826+(EPIC,CD/2001)  COMMONやTHE ROOTSとの共演で知られる、ジル・スコットの2枚目にして堂々のライブ盤。2枚目が  ライブ盤というと、ついエリカ・バドゥを連想してしまうが、徹頭徹尾クールなエリカ盤に比べて  とにかく熱い。オーディエンスの女性達がコーラスやサビ以外のパートも熱唱しているところから、  姐御という表現が相応しく感じられた。彼女の本国での浸透を物語る好盤。余談だが、ジャケットの  印象からジャズ棚に置かれている場合も少なくない(ある意味正しい?)ので購入の際は御注意を。  ■■■■□ ・Richard Darbyshire/Love Will Provide(ZAIN,CD/2001)  元リビング・イン・ア・ボックスのボーカリスト、リチャード・ダービーシャイア(オビ表記。以前は  ダービシャーと言ってたような)のソロ作。興味本位で購入したものの、ほぼ予想通りのBGM以上でも  以下でもない仕上がり。声は相変わらずなので方向性は正しいと思うのだけど、同じことをやるのなら  マイケル・マクドナルド程アクがあるわけでもなく、ドナルド・フェイゲン程含蓄があるわけではない  というのは少々キビシい。こちらもお懐かしや、リサ・スタンスフィールドとの共作1曲を含む。  ■□□□□ ・eddi reader/driftwood(UNIVERSAL,CD/2002)  前作"Simple Soul"と同時期にレコーディングされていたそう(通常販売は日本のみ)だが、こちらの  方がよりレイドバックしているにもかかわらず聴きやすいのは、楽曲の良さゆえであろうか。ヴァン・  モリソンというよりデヴィッド・シルヴィアンやマーク・ホリスの風情に近いその作風は、フェアグラ  ウンド・アトラクションの頃のように明快なものではないけれど、聴き込む程にじわじわと沁みるもの  がある。ボーナスのライブ音源も嬉しいが、この流れにはちょっと合わない気もする。  ■■■■□ ・Prince/the rainbow children(NPG,CD/2001)  復活、復活と騒ぎ立てられている「殿下」名義の久々の作品。'80年代後半をこの人に捧げた身としては  例の傑作群とつい比較してしまい物足りなさも感じてしまうのだけど、過去数作で見受けられたように  無理矢理時代と折り合いを付けるような不自然さが無くなった分、かなりリラックスした作りになって  おり、それが良い結果を生んでいるようだ。個人的には、ワンコードファンクにおけるVo.やG.のピッチ  操作が久々に聴けるのが嬉しい。  ■■■□□