Steve Miller Band/Fly Like An Eagle(1976)

'90年代の初めごろ、ネヴィル・ブラザーズ"fly like an eagle"をカヴァー
していたのをFMで偶然聴いてものすごく驚いたのを覚えている。まさに「この手が
あったのか!」って感じで思わず膝を叩いたものだった。その後他にも同曲の
カヴァーをいくつか耳にしたりして、ひょっとしてスティーヴ・ミラー、今キてる
のか?と思ったものだったが、結局は全然そんなことなかったという(笑)。

スティーヴ・ミラーというと私の場合、この'76年のアルバムはリアルタイムで聴い
てはいなくて(まだフォーク指向だったので洋楽はビートルズとカーペンターズく
らいしか知らなくて)、その次の『ペガサスの祈り』"jet airliner"が中学の
終わり頃少しヒットしていたというイメージ。後の'82年頃にあの珍曲「アブラ
カダブラ」でなぜかブレイクしてしまうわけだが、'78〜9年当時「クロスオーヴ
ァー・イレブン」でタイトル曲"fly like an eagle"や哀愁の"the window"、
あとでサム・クックの曲だと知った"You send me"なんかが頻繁に選曲されていて
(選曲を担当されていたのは小倉エージさんでしたね)、この番組のエアチェックに
余念がなかった私は一発で気に入ってしまった。特に"the window"というバラード
がものすごく好きだったのだが、ここでの彼のコブシを回す歌い方にかなり影響を
受けたのを覚えている。コブシっていうとそれまで私には演歌のイメージだったけれ
ど、ポップ音楽における黒人音楽めいた表現というものを最初に発見したのも
ここらへんだったように思う。しかし黒人音楽といっても決して熱くヘヴィーにシャ
ウトする歌い方ではなくて、クールでグルーヴィーっていう表現が実に良くハマる
いなたさとオシャレさが絶妙な感じ。あのZAPPを率いた故ロジャー・トラウトマン
なんか、似てるわけじゃないが以外と仲間かもしれない。同じスティーヴ同士の
ウインウッド氏同様、ビートルズ以外の洋楽を聴き始めたばかりで自分でも演奏
したり歌ったりするのに目覚めたころの私の心の奥底ににカッコイイ音楽ってもの
の雛型をゴリっと刻みこんだ人だったっていう気がしている。

彼らが60年代後半のアメリカ西海岸で、ボズ・スキャッグスベン・シドランを
擁するブルーズ・バンドだったことを私が知るのはもう少し後だが、このアルバムか
らはあまりそういう過去を感じさせない、悪く言うとケーハク一歩手前のシンセの
SEを多用して軽快でスペイシーな路線のロックをやっている。ケーハクといえば
"rock'n me"のイントロ、これはどう聴いても"all right now"のパクリなのだが、
歌に入るとあのフリーの重厚さとは似ても似つかぬ能天気なロックンロールになっ
てしまう(笑)。訴えられたというハナシも聞かないが、パロディのつもりだった
のだろうか?

しかし、だからといって内容がくだらないかといえばそんなことはなく、そこかし
こに彼独特の"グルーヴ"というものの本質を突いた表現が散見されるのである。
例えば"Take the money and run"はいかにも爽快なハーモニーのファンキー・
ロックだが演奏のほうはシンプルの極地のようなノーダビングの完全ギタートリオに
よるもので、間奏にギターソロでも入るのかと思いきや、やおらスティーヴのリズム・
ギターが狂ったような高速6連カッティング!もちろん彼はロック史に名を残す
ほどの名ギタリストであり、ここで華麗なリードをダビングするなんてことも朝飯前
だったろうが、作り込みの選択肢も多いスタジオ作でこういうプレイができるってい
うのは実に深いし、ブルーズってものを、ひいては音楽ってものを正しく理解
しているミュージシャンだと感じるわけです。ほかにも色々あるんだけど、これら
の味な演出というか「旨み」成分の含ませ方の巧みさがいつまでも彼の音楽が古くさ
さとは無縁の若さシャープさを保っている要因ではないかな(本人、現在は随分太り
ましたが、まだまだバリバリやっているようです)。冒頭のような数年前のカヴァー
の多発ぶりにも彼の音楽の不変的なマジックの再発見的な意味合いがあったと思う
のだが。とにかく得難い個性、元気なうちに一度は来日して欲しいものです(して
ないですよね確か)。

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