LITTLE FEAT/DOMN ON THE FARM(1979)

時は1979年。それ以前に有名な『ディキシー・チキン』を手に入れていたものの、
何を隠そうこのリトル・フィートのアルバムは私が最初に新譜としてリアルタイム
で接した彼らのレコードだ。しかし、ご存じのようにこのアルバムは皮肉にもロー
ウェル・ジョージの追悼版としてのリリースになってしまったわけで、彼らのファン
になりたての私はいきなりひいきのグループの最後を看取ることになってしまったの
である。

彼らはもちろん現在でも元気に活動を続けている。先日もポール・バレルと再結成
後は正式メンバーとなってバンドを支えているフレッド・タケットのふたりが来日し
て、アコースティックながらフィートのテイストを十分に伝える素晴らしい演奏を聴
かせてくれたばかりだ。でもやはり一般的には、この『ダウン・オン・ザ・ファー
ム』はどうしても彼らの最後の作品という感傷的なイメージがどうしてもつきまと
っているようだ。当時の雑誌レビューなんかは、このアルバムがそれまでになくあっ
さり味の音楽性だったこともあって、やや精彩に欠けたフィート最後のアルバム、
という評価が多かった。それはそれより少し前に出されたローウェルのソロ作の評価
にも通じるものだったが、私は新参者のファンであったので、そういう思い入れっ
ぽい論調にはいまひとつピンとこなかった。こなかったどころか私には『ディキ
シー・チキン』とくらべても何ら劣るところがない素晴らしいレコードと感じ
ているくらいなのである。

このアルバムにはそれまでの彼らのような「度肝を抜く不気味なリズム跳躍」「どこ
までも伸びるファンキー・スライド・ギター」などの大技は見られないかもしれない
が(でもいろんな意味でタダモノではないリズム使いは随所にでてるんですぜ)、
歌手ローウェルを中心に据え、他3人のシンガー(ポールとビル・ペイン。最後
はサム・クレイトンもリードをとってますな)のバリエーションもフィーチュアした
ヴォーカル・アルバムとしては、これまでにない成果を見せていると思われる部分
がたくさんある。私が最初にノック・アウトされた"Perfect Imperfection"を
聴いてみてほしい。"Long Distance Love"に勝るとも劣らないソウルフルな
ローウェルの歌唱。ヴォーカリストとしての才能が最高に開花してると思う。で、
この曲はポールとトム・スノウの共作でローウェルがコンポーズには参加していない
のもミソ。もしこれがポールのヴォーカルだったらこれほどの味わいになったかどう
か。ここら辺にも常に楽曲のための適材適所というか、不仲が伝えられていた中にも
音楽というものが常に最優先したグループの姿勢がうかがわれる。ポールによる
間奏の短いギターソロもシンプルだけど実に歌ってる。フィーリングを完コピする
まで練習した数少ないギターソロの一つです。

この曲だけでなく歌手としてのローウェルはこのアルバムでは正に「復活」を印象
づける大活躍なんです実は。"Front Page News"なんかもローウェルの歌唱による
スティーリー・ダン的サウンド・スケイプといった趣のフレッシュな世界。とは
いえポールのヴォーカルが悪いといっているのではない。冒頭のタイトルナンバー
などは今ではポールのテーマ・ソングみたいなもので、アヒルのSE(最高!)に
続いて出てくるややコミカルな味の彼の歌も大きな魅力だと思う。現在もフィートの
屋台骨を支える彼の歌唱力、今ではかなりのものになっていて、数々のローウェル・
ナンバーを彼が歌い継いでまた別の味わいを醸し出しているのも要注目。

ビルも一時期のフュージョン・コンプレックス(それも好きだけど)から一皮むけた
感じで、なんといっても"Wake up dreaming"の西海岸っぽいポップなんだけど、
ちょっとセンチな感じの曲とヴォーカルがたまらない。私はなぜかこの曲を
聴くと、なんだか目頭が熱くなったりします。ラス前という非常にいい位置に
入っているせいもあって、思い込みかもしれないけどなんかバンドの最後の状況に
ついて歌った歌のように感じるんですな。コード感も独特で途中GからEフラットに
飛ぶとこなんか、自分の曲で真似してみたりしたものだ。ラストでサム・クレイ
トンのへんてこりんな歌が聴けるのもおもしろい。最後が変な曲ってのはここまでの
フィートの伝統かも。そういえば前にこのアルバムの一曲、"Straight from the 
heart"のイントロをサンプリングして使っている日本のなにがしかのグループの
曲をラジオで聴いたことがあるけど、若者はなんでも聴いておるのうと感心した次第
(もとい若いかどうかは知らないですが、私も相当な若輩者でございましたな。失礼)。
評論家の言うことにまどわされちゃいかんよ。古い新しいなんて話は音楽には関係
ナイのであーる、と嵐山光三郎調はちと古かったですか。

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