NEVILLE BROTHERS/NEVILLE-IZATION(1984)

ニューオリンズ。実に甘美な響きだ。このアメリカ南部の小さな港町から生まれた音楽
に触れることはポップス好き、あるいは音楽をやっている人間には、好き嫌い以前に避
けて通ることができないものだと思う。
私の場合はこの町の音楽に目を向けさせてくれたのは、かのリトル・フィートだ。高校
に上がるくらいのころ、スライド・ギターに興味があって、読んでいたギター雑誌の情
報をたよりに買った『DIXIE CHICKEN』には小倉エージ氏のアラン・トゥーサンに
ついての記述があって、この人のことを調べたことから始まっている。ここから、ザ・
ミーターズの噂を耳にしたり(音はかなり後になるまで手に入れられなかった)、ザ・
バンド『CAHOOTS』を聴いたり、東京に出てきてからは自主上映で見たラスト・
ワルツの映画ドクター・ジョンに巡りつき、アルバム『GUMBO』を聴き、'84年の
彼の初来日を今はなき渋谷のライヴ・インに見に行くに至るわけだ。

このライヴで売られていたドクター・ジョンの来日パンフというのが、これも今はなき
青山のレコード店、パイド・パイパーハウスが作っていたニューオリンズ・サウンドの
わかりやすい入門書ともいえる素晴らしいもので、これを読んだことがキッカケになって、
それまでいまいちはっきりつかめていなかったニューオリンズサウンドの謎がすべて解け、
この底なし沼の内部の成り立ちを知り、遅ればせながら順序立てて入り込むことができる
ようになった(同じ経験の人、結構いるのでは?)。前置きが長くなったが、このパンフに、
「今のニューオリンズの最も旬なグループ」として紹介されていたのが、ネヴィル・
ブラザーズだった。それで、ライヴ会場で売られていた英デーモンからの彼らの最新
ライヴ・アルバムである『NEVILLE-IZATION』をさっそく買って帰ったというわけである。

ネヴィル・ブラザーズはご存じのようにミーターズをやっていたアート・ネヴィルが
自分の兄弟たちとともに始めたグループだから、旬なグループといってもこの時点でもう
十分なベテランだったわけだが、このアルバムに針を落とした瞬間の若々しいハーモニ
ーが流れ出した瞬間のことは今でも忘れられない。オープニングの曲はリトル・ウィリ
ー・ジョン(彼のレコードも最高!)の古いヒット曲"FEVER"。甲高い声を絶妙に転が
しながら歌うリードシンガー(もちアーロン・ネヴィル)と強力にスウィングする鉄壁の
バンド・アンサンブル。これを真綿で包むようなキメ細かくメロウなコーラス。とにか
く私には恐ろしくナウい音楽に聞こえたものだ。続く"WOMAN'S GOTTA HAVE IT"は
さらにモダンだ。ジェームス・テイラーなんかもカヴァーしているボビー・ウーマック
の名曲だが、このネヴィルズのヴァージョンはさらにオリジナルも凌駕する出来。柔らか
なランニング・ベースに乗ってのウォウウォウ・コーラスのイントロにつづいて、アー
ロンのスウィートなリードが先導し、彼の歌うメロディーに絶妙にハモリを加えていく
アート、シリル以下のコーラス隊。甥っ子のアイヴァンもいるみたい。エンディングに
向かってのコール・アンド・レスポンスもキマり過ぎ。リズムを崩しまくったリードに
ピタリくっついて、完璧にハモっているコーラスもとにかく脅威的。再びウォウウォウ・
コーラスが登場し、最後に曲タイトルを一発ハモるというニクいキメも凡人がやるとクサ
いが彼らの場合寸分のスキなしであまりにもかっこよすぎ。もちろんアルバムの最後に
はニューオリンズ定番の"BIG CHIEF"やミーターズ時代の傑作ファンク曲"AFRICA"など
も用意されているわけだが、こんなソウル・ナンバーを実にスピード感あふれる粋なコー
ラス物に仕立て上げてしまう途方もない実力には口アングリ。エリントン・ナンバーの
おなじみ"CARAVAN"まで飛び出して、ニューオリンズ・ファンク云々以前に音楽グル
ープとしての強烈なまとまりと懐の深さ、バンド全体がひとつの生き物みたいに
自由自在になってるこの感じって、いったい何食ったら出来るもんなんだろうか。
'96年の秋にニューオリンズに行ったとき、このアルバムの録音されたクラブ「TIPITINA'S」
を訪ねたのも非常に感慨深い思い出です。

'86年にネヴィルズは初来日してこれまた渋谷のライヴ・インでコンサートをやったが、
これを最前列のかぶりつきで観た体験もこのレコードを聞いたときに負けず劣らず強烈
なものだった。"WOMANS〜"ももちろん演っていたし、生で聴く"TELL IT LIKE IT IS"も
格別だった。とにかく全員歌も演奏もバカウマでリズム感覚も超へヴィ級。同じ音楽を
志す自分とのあまりの力の差、次元の違いに愕然としたものです。そんな彼らもその後
すっかりビッグになってしまったからライヴハウスで観る事なんてきっともうできないん
だろうしこれは実に貴重な体験。ただし、この初来日の後に鳴り物入りで出た『UPTOWN』と
いうスタジオアルバムに思いっきりガッカリしてしまって、翌年に青山CAYで行われた二度目
の来日をパスしてしまった上に(ドクタージョンとジョイントした芝浦インクスティック
には駆けつけましたが)、続く名作、『YELLOW MOON』を聴くのがだいぶ遅れてしまったと
いう失敗を犯しましたが。

ちなみにこの『NEVILLE-IZATION』、しばらく後になってから出た続編的内容の『NEVILLE
-IZATION II』と最近ワン・パッケージにして再発されているみたいです。

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