BLIND FAITH/BLIND FAITH(1969)

何を隠そうスティーヴ・ウインウッド様こそ長年の私のもっとも敬愛する音楽家であ
り、自分のやるべきことに迷いが出たときは必ずウインウッド様の声を聴いて心の洗濯
をしているという、私にとってのヒーラー的存在でもあるし、ミュージシャンとしての
ありようなども実に良い感じでまさに理想的な人だと思っている。

最初の出会いはクラプトン狂だった高校一年のときで、クラプトン関係のアルバムを集
めまくっていたときにたまたま買ったこのブラインド・フェイスのアルバムでのこと。
このアルバムで彼の事を知った人は多いと思うけど、最初はそんなにいいとは思わなか
った。わりとレイドバックで乾いた音楽が好きだったので、ちょっと湿気の多い彼の声
は最初、クリームのジャック・ブルースと区別がつかなかったくらいで、フトドキにも
クラプトンが歌えばいいのにとか思っていた。しかし何度も聴いているうちにこの声が
どうにも耳にこびりつくようになってきたのである。

とくに忘れられないのはB面アタマの"SEA OF JOY"。2番の後のテーマ・リフに続いて
8小節のワンコードでウインウッド様のヴォーカルがすべりこんできて再びテーマ・リフ、
リック・グレッチのヴァイオリン・ソロにつないでいく部分があるのだが、このリフ直
前のシャウトすべき部分で、彼の声がひっくり返ってかすれ、みごとコケてしまってい
る。しかし、このコケ方がなんかムチャクチャかっこいいっていうか、彼の感極まった
ソウルが伝わってくる瞬間なのである。もちろん彼は誰もが認めるイギリスきっての強
力なシンガーなわけだが、そんな世評に惑わされることなく冷静に分析してみると、当
然、彼の場合声自体のパーソナルが凡人とはけた違いの才をもってはいるけど、そんな
にピッチは正確でもないし(かなりシャープしがち)、音楽にどこかツメが甘い感じの
時もある。しかしこういう穴の部分から、彼の歌の魅力がにじみででくるあたり、彼が
「良い歌手」なんかではなく、サム・クックとかアレサとかの「とんでもない歌手」の
仲間であるという事実は動かしようがないのだ、と強引に言い切ってしまおう。

しかし、それにしてもすんごい声である。再び"SEA OF JOY"だが歌に入って9小節目、
"feeling close to〜"のところのD音を地声で楽勝で出しているけど、ヘビメタみたいな
闇雲な感じではなく、実に豊かなフィーリングを湛えつつ爆発するさまなんざ、これが
当時21才の若造のしわざかと思うと寒気が走りますな。冒頭の"HAVE TO CRY TODAY"や
クラプトン作の有名な"PRESENCE OF THE LOAD"でもこの雄大な爆発は存分に楽しめ
るし、バディ・ホリーの軽妙な感じの曲"WELL ALL RIGHT"を声とファンキーなピアノ
だけでここまでブルージーにしてしまうなんて(他の演奏陣はそんなにヘヴィーにやって
ないし)、まったく驚くばかり。

これ以降、彼はトラフィックを再編して数々の気品にあふれた名作を連発していくわけ
だが、これらのアルバムについてもそのうち思いっきり書いてみたいな。ホントにここ
らへんの音は私の音楽生活にとってたいへん大切な、思い入れの深いものなんですよ。
と、ウインウッド様の事ばかり書いたが、御大クラプトンもこのアルバムではとても良
いプレイが目立っていると思う。"HAD TO CRY TODAY"のウインウッド様の弾くギター
との絶妙の絡みもイカスし、最後の長いジャム・セッション"DO WHAT YOU LIKE"なんて、
本人は気に入ってないってハナシもあるけど、まるでジェリー・ガルシアみたいなクリ
アーなトーンでとろけさせてくれるし、ジンジャー・ベイカーにしたって最良のジャズ
のスピリットを感じさせるような「クール」なプレイで盛り立てている(ドラムソロは
相変わらずだけど)。スーパー・グループ云々で盛り上がっていたらしい当時のムード
とは裏腹の大変抑制の利いた大人っぽい音楽だ。なんかやっぱりこれ一枚で終わってし
まったのはすごく惜しかった。周りがもうすこし音楽を練り上げる時間をあげれば良か
ったのにと思う。残念にもリック・グレッチが亡くなってしまってオリジナル・メンバ
ーの再編は不可能になったが、数年前の再編トラフィックのツアーでもベースを弾いて
いた'74年の解散当時の黒人ベーシスト、ロスコー・ジーあたりを加えて再編してみたら
どうか。しかしやっぱり当時のこの冷めた熱気みたいなのはこの時代ならではのモノな
んでしょうねえ。きっと。

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