正午さんを語る夕べ


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 午後四時、ぼくは小田急線に乗った。海老名で乗り換え、相鉄線で横浜に向かう。今日は佐藤正午さん(知らない人はまずここへ行ってから戻って来ること)について語るための集まりがあるのだ。掲示板でやりとりをしたことはあるけれど、実際に会うのはこれが初めての人ばかり。はたしてちゃんと喋れるのか早くも不安を感じる。そんなぼくの気持ちにはお構いなしに電車は進んでゆき、五時ちょっと前に横浜駅にすべり込んだ。

  まずは岡田屋モアーズを発見しなければならない。知っている人もいるかもしれないが、ぼくはちょっと方向音痴のけがあるし、横浜の街を歩くのは数年ぶりだ。昨日一緒に呑んだ友人が言っていた方向に歩いていくと、わりとすんなりと岡田屋モアーズを見つけた。この前が待ち合わせ場所なのだけど、青いウィンドブレーカーを着た女の子たちが何やら配りながらマイクを握っている。
 しばらく耳を傾けてみた。どうやら「シム・シメール展」というものが最上階で開かれているらしい。
 「ここでみなさんにシム・シメールについてご紹介しておきます。シム・シメールははじめ絵の教師を務めたあと、WWF、環境団体の……」
 さすがにその女の子たちの横に突っ立っていられるほどの度胸はぼくにはない。そこで、その声を左に聞きながら待つことにして地下への階段の入口に立った。ぼくの目印は『永遠の1/2』の単行本と決めてあるので、頁を開く。失業したとたんにツキがまわってきた。最初の一行を何度も読みながら、これがほんとうならばいいよなと思ったりする。

 何度目かに顔を上げたときだった。見覚えのあるふたりがこちらに向かってくるのに気づいた。じゅんのさん夫婦だ。rainさんのところで写真を確認しておいてよかった。第一印象としては、じゅんのさんは写真よりも精悍な顔立ちに思えた。じゅんの妻さん(今回はこの表記で、ということです)は……かわいい人だった。こういうことを面と向かって言えないのがぼくの弱点だと思いつつ、じゅんのさんとあいさつを交わした。じゅんのさんとはぼくが以前勤めていた塾の話を少しした。昔は八百屋のおじさんとかが先生だったんだと話したら、少し驚いていた。
 十五分ほど遅れてミステリーマンさんが登場。急に仕事が入って遅れてしまったそうで、走ってやって来た。仕事帰りなので、スーツの上下に身を包んでいる。ちょっと話したところ、同い年だということがわかってなぜかほっとした。
「じゃあタメじゃないッスか」
 そうミステリーマンさんが言ったとき、いいなあと思った。実際に耳にしないとわからないかもしれないけど、この「ッス」の魅力についてはこのあとじゅんのさんも力説していた。
  O×PEさんは来るとしても遅れるだろうということなので、店を探しながら歩き出すことにした。

  五番街の中に「ユック」という名の店があった。北海道料理を出すところらしい。他の店もぐるっと見て回ってから中に入る。注文を取りに来た店員にミステリーマンさんが「おすすめ」を訊ねたら、たこのうす造りだと言われたのでそれを注文。続けて「ちゃんちゃん焼き」も頼んだ。
 ビールがやってきて乾杯を済ませ、たこのうす造りをつつきながら話が始まった。

まずは乾杯!(じゅんのさん)

 

 

 

 

でんさんの話は……(O×PEさん)

 

 

 

 

何かを売っているんッスよ(ミステリーマンさん)
右の人は誰?

 

 

 

じゅんのさんと笑い合っていたのが印象的(じゅんの妻さん)

 

 

 

 

 その内容について書き出してみるけど、順番は保証できない。何しろずいぶんといろいろな話をしたので、順番は記憶に残っていないのだ。ちなみに、三十分ほどしたところでO×PEさんも合流するのだが、その前に何を話したかも憶えていない。そんなに呑んだ憶えはないのに。あ、ひとつだけはっきり憶えていることがある。軽井沢プリンスホテルに3週間も泊まって研修する企業があるという話。あるところにはあるものだ。

 正午さんの掲示板について:
じゅんの「はじめ、せんせとrainさんの他には、ぼくとぽんちゃんとKasugaさんしかいなかった」
じゅんの「古い人ほど発言が少なくなりますよね」
じゅんの「チャット騒動のときは、せんせもrainさんも打つのが速くてあせったんですよ」
ミステリーマン「初めて書き込みをするまで2ヶ月くらいかかりました。何度も消したんです」
ミステリーマン「書き込みをしたあとで消すことってよくあるんですよ」
ミステリーマン「掲示板を見つけるまではパソコンはオブジェでした」
(じゅんのさんの迷言「今日は酔っているけど僕は負けません」について、じゅんの妻さんの発言があったらしいのだけど、ぼくの記憶には残っていないのがくやしい。トイレにでも行っていたか、ぼけっとしていたのか)

正午さんの小説の話:
ミステリーマン「会話がハードボイルドなんですよ」
発言者不明「世界がつながっていく」
じゅんの「登場人物と作者をだぶらせるような読み方を期待しているんじゃないかな」
ミステリーマン「僕的には『ビコーズ』はベスト3に入るんですよ」
GTA「私はやっぱり『リボルバー』が好きですね」
じゅんの「僕は『個人教授』がいちばん好きなんです」
O×PE「『ビコーズ』はよかったですよ。2日で読んじゃいました。」

佐世保の話:
O×PE「佐藤正午の部屋はだいたいわかっている」
O×PE「西海市は佐世保の街をアレンジしたもので、病院が出てくるとこれは○○病院だと思ったりする」
O×PE「実は夜の街で佐藤正午の噂を聞いた」

「花を探して」について:
じゅんの「あれは花の子ルンルンの歌詞のまんまなんです。GTAさんは絶対気づいてくれると思いました」
じゅんの「rainさんの息子さん、折り紙が上手なんですよ。テレビとか作っちゃう」
ミステリーマン「rainさんのところの焼き鳥はどうでしたか」
じゅんの妻「おいしかったですよ」
ミステリーマン「食いてー」
じゅんの「rainさんと荒川さんのページの話をして。rainさん、『日々の思い。』毎日読んでるでしょ、って言ったら『読んでます』って言ってました」(ありがとうございます、rainさん)

でんさんについて:
O×PE「友だちの友だちだったんです」
その他もう少し話を聞いた気もするけれど、 O×PEさんの××(自主規制)に関わるので省略。

GTAについて:
ミステリーマン「荒川さんって1日にどれくらいホームページを見てるんですか?」
GTA「そんなに多くないですよ、う〜ん、10ページくらい」
じゅんの「それは多いですって」

 このあと、各自の読書歴みたいなところから漫画の話に。どんな雑誌を読んでいるかといった話をしているうちはよかった。O×PEさんが「いまのヤングジャンプって読む漫画がありませんよね」と言えば、山ほど雑誌を読んでいるのもいる。あ、それはぼくか。

  昔の漫画の話を始めたらもういけない。みんな、語る。語る。 要約すると、じゅんのさんは『人造人間キカイダー』が好きで、ミステリーマンさんは『カムイ伝』『ゲッターロボ』が好き。このふたりは『デビルマン』も好き。てきとうにぼくも合いの手を入れたけれど(たしかぼくは何もおすすめしなかったと思う。自信はない)、O×PEさんとじゅんの妻さんは聞き役に徹していた。その後、話はどんどんヒートアップしていき、アニメ番組の話やら何やらまで進んだ。やはり順不同で書き出してみるけど、わかる人にしかわからないと思う。あしからず。

じゅんの「この間石ノ森章太郎展に行ってきたんですよ」
じゅんの「トライダーG7の最後は、敵が商社なんですよ。で、そこにいままで負けた分の請求書が送られてきて。分割にしますかって言われて「いいや、キャッシュで払う!」って言うんです」
じゅんの「いまいちばんほしいのは、キカイダーとハカイダーのフィギュアです」
じゅんの「むかしG.I.ジョーに上から着せるのがあって、それのイナズマンを持ってるんですよ」

O×PE「僕、活字がだめだったんですよ」
O×PE「SFが好きなんだけど、日本のSFは海外では「SFじゃない」と言われていて……」
O×PE「銀河英雄伝説は全部読みました」
O×PE「神林長平が好きです」

ミステリーマン「キカイダーは裏ピノキオなんッスよ」
ミステリーマン「『三四郎』は恋愛小説じゃないッスか」
ミステリーマン「『イデオン』ってSFなんですか?」
ミステリーマン「汚名挽回って正しいんですか?」

 こんな話を熱く語っていたので、時間が経つのも速かった。気がついたら10時を回っていて、料理のラストオーダーの時間だと言われてしまった。次はどうしようかと思っていたら、ミステリーマンさんがひとこと。
「荒川さん、カラオケはだいじょうぶなんですよね?もうひとりの自分に叱られるとか……」
 自分のページに「趣味:カラオケ」と書いているんだからぼくが断るわけがない。ここで抜ける人もなく、じゅんのさんの先導でカラオケボックスに向かうことになった。

 途中、O×PEさんがでんさんに電話。留守番電話にひとりずつメッセージを吹き込んだ。その内容は正午さんの掲示板に書き込まれていたけど、ここでも再録しておくことにする。

じゅんの「もしもし?もしもし?でんさん?でんさん?じゅんのでーーーす!」
ミステリーマン 「ミステリーマンでーす」
O×PE 「ひととおり喋りますか?」
GTA 「GTAこと荒川です」
じゅんの 「以上です」
(バックにじゅんの妻さんの笑い声)

 カラオケに到着。じゅんのさんによれば、以前はラブホテルだったところらしい。道理で防音もわりとしっかりしている。って、関係ないか。
 部屋に案内されて、まずは全員モスコミュールで乾杯した。なぜか初めの1曲はアニメソングでということになり、「海のトリトン」(ミステリーマン)「おれはグレートマジンガー」(じゅんの)「想い出がいっぱい」(O×PE)「真っ赤なスカーフ」(GTA)の順で歌った。

お店のお姉さんに撮ってもらいました

 

 

 

 

「How many いい顔」は必聴です

 

 

 

 

演歌を歌っているわけではないんだけど……

 

 

 

 

ちょっとピンぼけ? 

 

 

 

 


 そのあとは歌いたいように歌ったので、もちろん順番は記憶に残っていない。曲名だけ書き出すと……。

  じゅんの「How many いい顔」「月光」「雨上がりの夜空に」「Vol」
 ミステリーマン「ラストショー」「東京Bay Side Club」「孤独のランナウェイ」「トランスファー」「大迷惑」
 GTA「空も飛べるはず」「夏の日の1993」「メロディ」
 (O×PEさんも何曲か歌ったはずなのだけど、彼からはメールが返ってこなかったので曲名不明)

 途中、O×PEさんが「そろそろデッドラインなので失礼します。それもかなりハードデッドラインです」と言いながら立ち上がった。ひとりずつ握手をして別れる。しかし、あとで判明したけれど、その頃既に終電がホームを離れようとしていたのだ。何も知らないGTAとミステリーマンさんはまだ歌っていたというのに。

 2時間ほど歌ってカラオケを出た。
「もう電車はないんじゃないかな」
「そしたらタクシーで帰るから」
 そんなことを話しながら、とりあえず駅まで歩くことになった。時計の針は……と思ったら、時計を持っていないことに気がついた。携帯電話を見てみたら、もう1時近い。たしかに電車はないだろうな。しばらくとりとめのない話をしたあと、『取り扱い注意』が話題に上った。じゅんのさんは言う。
「あの作品はあれで終わってはいけないと思うんですよ。もっと長く書いてもらいたかった。そういう意味でレビューを書いたんだけど、派閥の話になっちゃって」

 そのあと、もうひとつはっきりと憶えている会話があった。
「荒川さんにとって、佐藤正午はいちばん好きな作家ですか」
「う〜ん」
「まあ、あれだけたくさんの人の本を読んでるから」
「すべての作品がいちばんというわけではないけれど、もう特別な人になっちゃってるからね」
などと要領を得ない答え方をぼくはしたのだけど、この話はたぶんずっと忘れられないだろうと思う。もちろん、じゅんのさんは突っ込んだつもりじゃないと思うんだけど、ぼくにはなかなかのボディブローだった気がする。

 横浜駅に着いてみると、ちょうど構内への入口にシャッターが降りてくるところだった。ミステリーマンさんが駅員に声をかけた。
「もう電車はないッスね」
「ないねえ」
 何だかんだと話をした結果、ミステリーマンさんはじゅんのさんの家に泊まることに。そこで、じゅんのさんの家の近くまでみんなでタクシーに乗り、そこからぼくは厚木まで帰ることになった。

  タクシー乗り場にはどこからこんなに集まってくるのかと思えるほどのタクシーがたまっていた。うしろに三人、前にひとり乗ることになるので、助手席にはじゅんのさんが乗り込んだ。まずはじゅんのさんの家までの道案内をしてもらわなければならない。じゅんのさんが運転席に声をかけた。
「まず××台(自主規制)まで行ってから、厚木まで行ってください」
「厚木ですか、それはそれは」
 実際にそう口に出して言ったわけではないのだけど、この運転手さんの印象はこういう感じだった。助手席のじゅんのさんが軽妙な会話を進めるうちに、車は光あふれる街中を離れ静かな夜の町にすべり込んでいった。途中、さちさんが昔仕事でやって来たスポーツ店も教えてもらったり、運転手さんが予定より早く道を曲がってしまったりしながら、ようやくじゅんの邸の近くに。
「またやりましょう」
「きみーさんが夏休みならば、って言ってました」
「じゃあ、ぜひ」
 と話している間に、車がゆっくり走り出した。

 そのあとは、よく道がわかっていない運転手さんとぼくのふたりでよく厚木までたどり着けた感じだ。厚木の街中からちょっと離れたところで降ろしてもらい、十分ほど歩いた。近頃はあまりないけれど、呑みに出かけたあとふらふらと歩くのが好きなのだ。自分の発言を思い出して恥ずかしくなったり、誰かの話していたことを思い返して笑ってみたり。こういう時間はお金を出してもなかなか手に入れられないと思う。不意に昔の女友だちが言っていたことが頭に浮かんで、立ち止まったりもした。

 最後に。じゅんの邸に泊まったミステリーマンさんは、翌朝じゅんのさんが仕事の準備をしているとき、じゅんの妻さんとふたりで話したことが印象に残っているらしい。その報告はぜひ、じゅんの妻さん自身に掲示板に書き込んでもらいたいと思うなあ。

 はたしてここまで読んだ人がいるのだろうかと心配になるくらい、だらだらと書き進めてきたけれど、ほんとに最後のひとこと。文責はすべてGTAにありますので、ご意見、訂正、お叱りのメールは ara@y7.net までお願いします。


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