![]() はかせ / ほのか [ 戻る ] |
春もそろそろ終わりだというのに、少し肌寒い。 だが、ほのかはいつものように元気だ、今日も今日で、またワラビをいっぱい取っていた。 ほのかは得意そうに 「いつもの」 と飲み屋の常連客のような立ち振る舞いで、ワラビを僕に渡す、僕は僕で 「じゃあ、マヨネーズとしょうゆの準備は宜しく」 といい、台所に入る。 ワラビはよく洗った後、さっと油で炒める。余分な水分がはじけた所で出来上がり。こうしてできたワラビ炒めは、マヨネーズかしょうゆをつけて食べる(お好み)。 ほのかは、こういった春の草木が好きだ。理由は 「おいしいから」 実に分かり易い。でも太陽の元気をいっぱい吸った春の草木は、食べなくても僕たちに元気を与えてくれる。 食べた後はお仕事。と言ってもほのかはお昼寝に入ってしまった。僕は昨日の計算を続けよう。 理論上でいくと、今度の総合実験では相当の熱量を必要とする。今日はその熱量の計算。一応仮計算ではそんなに行かないだろうという数値は得ているが、生来おっちょこちょいの僕は、この手の計算は何度もしておかないといけない。例えば発生する熱量がロケット発射と同じ!、とかいうようだと困ってしまう。それでは僕のポケットマネーでは何も行えない。ああ、貧乏は嫌いだ………。 五回計算をしなおす間に、三回のお茶をとって、四回のトイレ、十回のあくびをした。どうやら、仮計算の範囲内ではあるようだ。これならビックリするような熱量は発生しないだろうし。冷却にもそんなにお金はかからないだろう。オマケに地球にも優しい数値ときてる。うんうん、いいね。 「ぱるぷんて!!!!!」 ………、ほのかはいつも夢の中で大冒険を繰り広げている。夢の中の出来事は起きたときによく話してくれるので、彼女の夢の進行状況もバッチリだ。昨日は最強の呪文を覚えたと豪語していたのだが、早速使用しているようだ。でもね、ほのか、その呪文は余り使わない方がいいと思うよ。 ほのかが大冒険を繰り広げている頃、僕はさっきの計算式を元にプログラムの作成に入る。シュミレーションも勿論必要だ。作業的にはさっきの計算何かよりもこっちの方が楽しい。なんといっても、自分で作業が見えるからだ。計算はちゃんとした答えがでてくるまで形が見えなくて怖い。そんな考えを持っていたら科学者失格かな? 「あー!!博士が工作してる〜!!」 「お〜!、がんばるよ!」 近所の子供が走り去っていった。下校時刻らしい。 「ぱぱぁ?」 ほのかが起きたようだ。 「あー!ずるい!ほのかにナイショでー!!」 「ははは、悪い悪い、じゃあそこをおさえてくれるか?」 ほのかもこの手の作業は好きのようだ。んー助手としては、僕の代わりにさっきの計算をしてくれる方が有り難いが、今後に期待しよう。 「ねー、何を作ってるの?」 「んーなんでしょう?」 「えー、またないしょ?」 「そういうわけでもないけど、まだ内緒」 「ぷー」 あ、むくれちゃった。ヤレヤレ。 ほのかは、ほっぺにいっぱい空気を溜めて、顔を真っ赤にさせながら僕に訴えるように見つけている。まるでミニトマトみたいだ…、ミニトマト? 「あはははははは!」 「なんでわらうんだよぉ!」 「あははははは」 ミニトマトのほのかは、本当に怒って家の中に入ってしまった。まずいとも思ったが、あとでミルクレープでも買っておけば多分大丈夫だろう。 「ほのかー、続けておくよ」 一応断って作業を続ける。これが完成すれば、予定の30%は完了する。 後は、アレと二ヶ月前に実証可能になったあの理論を組み合わせていけば……。 うん、きっとうまく行く。 −夜10時 今日の夕飯は高菜のチャーハンこれはうまくいった。フッフッフこれでレパートリーも増えた。ほのかも気にいってくれたようだ。それにミルクレープでご機嫌もなおってくれた。 ほのかは後かたづけを手伝ってくれた後、お風呂に入って寝てしまった。 僕はといえば、完成まで後ちょっとだから、このまま頑張ってしまおう。このペースで行けば明日のお昼までには、実験に入れる。ほのかの驚く顔が目に浮かぶ。 そういえば、こんな感じに作業が楽しく思えるようになったのは何時くらいだろう?、シュミレーションのデータから割り出した冷却材の量を確認しながら、フトそんな事を考えていた。 あれは、確か去年のちょうど今ぐらいの時期。ほのかのが高熱を出して戸惑いながらも看病をしたあの夜。ほのかが「アイスクリームを食べたい」といい。慌てた僕はお手製のアイスクリームを作った。その時僕にできる最高のものを、ほのかにあげたくて、ただガムシャラに作っていた。結局、四苦八苦してアイスクリームを作る頃には、ほのかの熱も下がっていた。 「コンビニにあるので良かったのに」 なんてツッコミを入れられたが、 「でも、ミルクいっぱいで美味しいよ」 なんてお褒めの言葉も戴いた。理論を実証した時に得る満足感以上のものは無いと思いこんでいた僕は、あの「しかたないなぁ」という笑顔に、言葉では得られないような「なにか」を感じた。 今やろうとしている事は、その感覚を思い出したいというわけではない。が……。 どっどっどっどどどどん!! ディーゼル車のような、音を立てて実験は始まった。理論値と実測値にほぼ間違いはなかった。 「おはよー」 ほのかだ。 「おはよ」 「なにー完成したのー?、なになになになになになになになになになに”バリッ!!”」 バリ? その瞬間「ぼん」という音と共に機械は停止した。 冷却管の耐久性が足りなかったようだ。 失敗。 「さくら」 「ん?」 ほのかが上を見上げ、僕も見上げた。二週間前に散ったはずの桜が、風に舞い。文字通り、桜吹雪となって降ってきた。僕たちはしばし見とれていた。 「ん、つめたー!」 のハズもなく、桜吹雪に見えていたのは、冷却管を突き抜け空に舞った細かい氷の欠片だった。 「失敗失敗」 「失敗で雪を降らせてれば世話ないよ。」 ほのかから、きつーいお言葉を戴いてしまった。 トホホ。 でも、この装置のメドがたったのは確かだった。 「お隣さんとかに謝りにいってね!」 「はい」 |
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