eggplant 月の涙


第四回
疑惑

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 単純に考えて、私に容疑をかける者がいてもそれはそれで仕方の無い事だと思ってはい たが、単なる状況証拠のみで、まさか「逮捕」と言われるとは思いもよらなかった。普通 は任意同行を求めるものだろ。  −−と、私は私を尋問している新米刑事君を滑稽などと感じつつ、考えていた。  まず先に、元々私は警察の依頼を受けて調査しているのであって、私の背後になんらか の組織が見えるとしたらそれは警察その物にあたる。彼は自分を疑っている事になるのだ が、そんな事を言ったところで聞き入れるわけはまず無い。  フッ、私に逮捕状を見せつけている。化かしあいもいいところだ。  化かしあい?・・・・・・  私は一つの仮説を立ててみた。もし、彼らがリピーターだとしたら?。いや、リピータ ーとは少し違う何らかの形でヤツに洗脳させられているとしたら、そう、さっきの子供の 様に・・・。そう考えた場合私の中で何かがつながるような錯覚に陥った。  しかし、この場にいる全員を一気に洗脳したのか?何時?状況から考えて、もし、この 場にいる全員を洗脳と似たような形でコントロールしているとすれば、さっきの少女を触 媒にして、クラックしてきたと考えるのが妥当だとは思うが、実際問題として、そんな事 が可能なのだろうか? ”そうだ、きっとそうだ。”  私がまるで二人いるかのように何か確信めいたものが、身体の中を掛け巡った、しかし、 一つの疑問も浮かんできた。  ”私をこんな形で拘束して何のメリットがある?”  私が相手なら、まずこんな事はしない。わざわざ自分の正体をさらす可能性があるかの ようなこの行動は、愚の骨頂でデメリットしかありえないはずだ。ではなぜ実際に逮捕状 が下りてきているのか?元々私がこの事件に関われるように状況作りを巧みに行って全て を仕組んだとでもいうのか?バカらしい、つくづくバカらしい、そんな事なら願い下げも いいところだ、私の方から、この関わりを断ち切ってもいい。こんな愚かな行為に陥るよ うな警察に付き合うほど私は暇じゃない。  新米の彼は、机をドンと叩くと何かを叫んでいるようだが、こちらには何を言っている のか分からない。きっと見当違いな事を言っているのだろう。   −ああ学生の頃もこんな事風に怒られた・・・そんな思いが掛け巡ってきた。  あれは高校二年の頃だろう。女子校だった私は、友人を殴った事があった。理由は今と なっては思い出せない。多分彼女の気に入っていた子を私が奪ったかなんかしたのだろう。 恋に恋していられる時期。何かのドラマの主人公で居られるような錯覚に陥る事のできる 時期。そんな瑞々しい時期が私にもあったわけだ。今となっては眩しい記憶でしかない。  そういえば、あの時彼女は確か私に・・・。  「さぁ、ゲームを続けようか?」  !  ハッっとした私は椅子から崩れ落ちるように倒れた。  しまった。ヤツの術中にハマっていた。  ホンの数秒だったがヤツに私の記憶を覗かれた。とんでもないミスを犯した。これでヤ ツは、私に入りやすくなった事だろう。ガードには自信がある方だったが、まさかこうい った方法で私を狙ってくるとは思わなかった。今ので全てがハッキリした。あの野郎、私 に入りやすくする為に周りの人間を全部乗っ取りやがった。  新米は銃を構えて何やら叫んでいる。オイオイオイオイ、乗っ取られた自分を自覚して ワザと銃口向けているわけじゃないだろうな?。四面楚歌、追いつめられているのは私の 方なのに、そんな事を考える余裕を持ってしまう。  事実余裕だった。  何故なら、敵の目的が判ったからだ。目的が判れば対処法はある。  が、それをやって、あの新米君は喜ぶだろうか?、一度ならず二度までもあの大嫌いな 私に貸しを作るというのは良い気分ではないだろう。しかし、あわよくば殺そうと血走っ た目とダラダラよだれを流しながら怒鳴っている新米を見ていると、こっちから殺してや りたくなる。一度ならず二度までも乗っ取られやがって、一生感謝しろよ!  ピシ  取調室の空気が一瞬まるであの冬の引き締まった空気のようになると、ドアや壁が「ピ シ」「パキ」っと二三鳴り新米や警部らは糸の切れた操り人形のように倒れていった。  この方法は複数の人間を同時に落とすには有効だが、相手の手がかりを掴もうとするに は弱い。でも、この状況はそれでいいのだ。何故なら手がかりはある。  あそこに手がかりはある。 −つづく。−
(C)1998 naoki shimura , eggplant

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