eggplant 月の涙


第二回
皆月と水無月

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 病院の匂い、消毒薬のあの特有の匂いが好きな奴と嫌いな奴とかいるが、私にとっては 仕事の関係上そういった好き嫌いに左右されるようなものではない。  「はい、2週間分のお薬出しておきますけど、この間みたいに1週間で終わらせてきち   ゃダメですよ」  「でも、毎日病院に来てないと不安なんだけんども・・・」  老婆が笑いながら私に言う、まるで私を困らせるのを楽しんでいるかのようだ。  「でもですね、毎日病院に来て、売店の菓子パンと牛乳でくすり飲まれちゃ治るものも   治りませんよ」  「でものう、」  「でもじゃないです。わかりましたね」  老婆の顔が曇る。良い感じだと私は感じ、自らの言葉に念をかけてこういった。  「貴方の家と、この病院の距離は貴方の健康管理上運動に適した距離関係にあります。   毎日病院に来るのは許可しましょう。但し、朝昼晩の御飯はもっと栄養のあるしっか   りしたものを食べて下さいね。」  老婆の顔がほころんだ。病院にいないと不安という老婆に毎日の日課(これが治療にも なるわけだが)を与える事によって彼女を快活にする事ができた。彼女の病気もこれで快 方に向かうと思う。  午前中の診察が終わり食堂へと向かった。やはり昨日の事が気になった。リピーターと しての覚醒は仕方がなかったにせよ、私はまた人を殺してしまった事になる。私が担当し 始めて6人。最初の2人はデータでしか知らない。そのデータにしても、警察の事情聴取 位なもので、医学的云々といった代物ではない。取り合えずリピーターの”治療”の方法 を考えてみなければならないだろう。壊した物でも、時間を掛ければ大半は治せる。リピ ーターに関してもそうに違いないと、私は確信していた。  憶測ばかりで具体性がないが、自分のカン以外信じる物は今の所存在する事もまたない だろう。そう、結論づいた私の前に、くたびれたスーツ姿の男が現れた。  新米の彼だ。  彼は私の方をじっと見つめた。周りの食器の音がうるさく感じた。  「どうしました?、私に何か用ですか?」  あまりにも何も語らないので、気になり私の方から聞いてしまった。彼にとってもそれ は意外な行動だったように見え、少し戸惑っている。  「病院を、え、その・・・」  戸惑っている戸惑っている、いつの間にか私は彼の反応を楽しんでいた。彼もそれに気 が付いたのか姿勢を正し、  「内科の先生なんですね、精神科だと思った」  と上擦りながら言ってきた。その一言で、今日何しに来たのかがわかった。  「ええ、そうですよ。内科です。悪いですか?」  「いえ、別に」  落ち着いてきたのかいつものケンカ調になってきた。  「あと、そっちが本名ですか?」  とネームプレートを見つめ聞いてきた。プレートには”皆月榊季”と書かれている。警 察には”水無月榊季”と伝えている。同じ呼び名にも関わらず字が違う事を指摘している のだ。  「どちらが本名だと思いますか?」  「別に興味はないですね。」  別に・・・、か、まるで子供みたいな返し方をしてくる奴だな、と思う。  「”みずなしつき”って書いてある方が本名です。”みんなつき”の方が患者への精神 的イメージもいいと思ったのでね。院内では、こっちを使用してるんですよ」  「じゃ、何で内科なんですか?」  直球なやつだな、これで本当に警官か?  何かの尋問のようで嫌だが、彼がこの食堂に腰を据えてしまったので、ちゃんと答えて やるべきだろう。彼が、こういったサイコセラピストに、善い感じを抱いていないのは解 る。しかもそのサイコセラピスト調べてみると、精神科医ではなく、内科医。何故なのか 聞きたくもなるだろう。  「”病は気から”この言葉はご存知ですよね?」  私は言葉を選んで言い始めた。  「実際問題、この言葉は医学では重要でしてね。マインドコントロールとでも思ってく れてもいいですが、”治る”と我々が言い、”特効薬”といってビタミン剤を与えてるだ けなのに快方に向かってしまう患者が実は多いんです。『プラシーボ効果』と言うんです が、人間・・・ま、生物全般にいえますが、自らが持っている治癒能力。それを促進させ る効果の事です。それを私は・・・」  「実用的に体系化し、自分の医学にも、我々が依頼する捜査にも取り込んだ。」  「そうです。」  意外に頭は良さそうだ、と思った。回転はいいらしい。  「成程ね、精神科よりも内科の方が患者としても楽だし親近感が湧くそうゆうわけか。   考えましたね」  「!」  今までの新米とは違う威圧感。引っ張られると形容するのが妥当か?そんな感覚が私に 押し寄せてきた。  「誰だ、お前は」  これが精一杯だった。  「あなたの知る人間です」  ・・・犯人。犯人の意志?、いや、あらかじめに組まれていたプログラム(=暗示)と は違う。新米君を触媒にして、私に語りかけているに過ぎない。どうやって?  「なんでって、私はあなたよりも能力が上ですから」  !・・・・読まれてる。  「今日は別にこの方をリピーター・・・失礼、あなたのネーミングセンスがいいので私 も使用してますが、そのリピーターにするのが目的ではありません。・・・あなたにゲー ムのお誘いをしにきました」  「ゲーム?」  「ええ、ゲームです。リピーターがらみのね。あなたは私がせっかく作り上げたリピー ターの数々を、ものの見事に破壊してくれました。ですから、その事からみてもあなたに 拒否する権利はありません。」  私には初めから選択枝が無いわけか。  「さぁ、ゲームを開始しましょう」  ・・・・・・・・三日後ゲームが始まった・・・・・・・・・・・・。 つづく。
(C)1997 naoki shimura , eggplant

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