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山下澄江 16歳
都立S女子高等学校二年
成績 上の下、普通ともいう。
三日前、学校の友達A、B、C、Dと遊んでいる最中に発病。
リピーターと確認。
翌日未明発狂、後、死亡。
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リピーターと確認。
・・・リピーターと、確認。
・・・・・・・リピーター。
リピーター、我ながら良いネーミングだと思う。リピーターとは、ここ最近女子校生位
の年齢の子がかかっている病気だ。いや、便宜上病気としているだけで、実際は犯罪だ。
誰かが彼女達の脳の中に入り込み洗脳に近い状況を造り上げ、死に居たらしめているに過
ぎない。
彼女を含め被害者は今の所八人。その全ての被害者に関連、若しくは共通項は無く、唯
一あるとすれば、全てが女の子だったという位でしかない。無差別と言われればそれまで
だが、それでは思考停止だ。何かあると思って考えなければならない。
何か・・・・それは何だろう。
私自身の経験からどうこうという問題では無い。金縛りの様なものであれば科学的根拠
や生理学的な面からの対処法もあるが、これは違う、なにせリピーターだ。私がそう確認
しているだけで実の所なんの根拠もない。犯罪らしいという線のみが濃厚なだけだ。こん
なデタラメな事件はそうないだろう。
私は、今までの経過を含め、考えついた複数の仮説について検討していた。そして、大
抵そんな時に、お呼びがかかる。
「皆月先生、お電話です」
早速だ。一応聞いておこう。
「誰かですか?」
「警察の方ですけど・・・・」
仕事というわけだ、行かない訳にはいかない。
「解った何番?」
私は、外線番号を聞き、電話を受けた。聞き覚えのある声がする。若い奴だ。確か私が
女である事と、冷徹的な振る舞いをするのが気に入らない奴だ。ま、新米なんだから、熱
っぽくなるのもわかるが・・・私の思っている事が解るのか少し怒りがかった声にも聞こ
える。多分私の事が嫌いなのだろう。軽く受け答えをし、彼のいう場所へと向かった。
その部屋は警察内部にも関わらず、どこかの病院の様な雰囲気を持っていた。多分何度
かそこでリピーターを診察しているからかもしれない。私はさっき電話をくれた新米の先
導に従いその部屋にはいった。
男?
そこには、中年に片足を突っ込んだかのような、青年が座っていた。
「彼です。」
警部も少し困ったように言った。
「男、ですね。」
「ええ、私も困りました。捜査範囲を広げないとね。あ、彼は、仕事中に急に倒れて・
・・と言う感じです」
と警部は状況だけ説明した。名前などは教えてくれない。当たり前だ今捜査中なんだか
ら、害者が死なない限り、私には教えてくれない。
私は、この男の瞳を確認してから作業に入った。作業と言うのは、私が彼に問いかけて
彼の深層心理をえぐる物なのだが、今まではこの段階で殺してしまっている。
「聞こえますか?、私は水無月榊季といいます。あなたの名前は?」
答えない。ま、今まで答えた奴なんていないが・・・
「子供の頃、あなたは、緑の深い森の中に迷ってしまって泣いた事がありますね。見つ
かった時あなたのお母さんは、冷たい目であなたの頬を一回、二回、三回と打ち、あなた
は何が起きたかわからないまま大泣きしました。・・・」
「・・・・・・・あ、」
反応があった、私は続ける。
「その時、あなたは何を見ました?」
「・・・・月が・・・・・・・・・」
「月が?」
「月が落ちてくるんだ」
私は嬉しさが隠せなかった。警部と新米は困惑している。
「九人とも同じ証言をした。」
私は続ける。
「どうして月が落ちて来るんですか?」
男は震えながら、恍惚とした表情で、「落ちるんだ」「本当だ」「月が」「月が」と繰
り返し始めた。そして私が理解を示すと勝ち誇ったかのように、高らかに「月が落ちる」
を連呼し始めた。
「で、何時、何処に?」
私言うと男の動きが止まった。勝ち誇っていた顔がみるみる子供のようになり、泣きじ
ゃくりならが「月が落ちる」を連呼し続けた。
「落ちませんよ、月なんか」
リピーターは苦しそうに、それでも落ちると半ば発狂気味でどなりだした。もう少しで
洗脳が外せる。私はそう確信しもう一度強く月なんか落ちない事を告げた。
すると、彼の目が痙攣を起こし最後に「落ちる!!」と叫んで静かになった。
・・・・・・・・・・失敗した。
「被害者が犠牲者に、か。」
警部がいつもの事のように言った。新米は明らかに私に憎悪を向けていた。
「では、あとの事はお願いします。私、仕事がありますんで」
私はその場を立ち去った。悔しかった。人を救えなかった事じゃなく。九つの方法全て
を失敗してしまった事が悔しかった。犯人は多分強い。
−つづく−
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