リスティア・ポイント 「魔女の降る休日」第六章
片桐しとか#


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 私はどこをどう歩いたんだろう。  暑い、暑くて気が狂いそう・・・。  あの日、みちると別れてから一度も会えてない。私の家はみちるの家からは電車で一時 間。  遠い、会いたいよ、助けてよ。  私の町は在日米軍基地があるせいか、まるで遠くの国での戦争のような光景が広がった。  あの日、私はあそこでの出来事をうまく整理できないまま居間に寝てしまった。夜はウ ソのように寒くなりお母さんが気にしてくれたのか、多きめの毛布を頭からすっぽり被さ れていた。お母さんの優しさ、タオルの柔らかさで、何となく眠ってしまった・・・。  そして、それは始まった。  チリチリっと熱い感じがして、まるで呻き声のようなむっとする感覚で目が覚めた。  今日は暑い、イヤだなぁと思って、頭を二三回掻こうとしたら、自分の髪がまるでパー マを掛けたように、クルクルしているのに気がついた。  何、何?、何?!  訳も分からず、顔も出すのも怖い、私は毛布にくるまったまま、ベットから出、壁づた いに下に降りていった。腕や足が少しヒリヒリする、何だろうコレ、急に日焼けをしたみ たいだ。  お母さんを呼んでみるが返事がない、今日はパートの日じゃないはずだから、スーパー にでも出ているのかもしれない。あまりにも、ヒリヒリするので、ソデを伸ばして腕を覆 う、どうにか階段を降りてみると、お母さんが倒れていた。 「お母さん!」  毛布にくるまりながら、もたつく足で、近づいてみると、まるで、チーズの様に溶けて る印象を受けるお母さんがいた。 「お母さん、どう・・」  息が苦しい、喉が焼けるようだ、何、何なの一体!  奥の部屋で私の疑問に答えるかのようにTVが鳴っている、私は母に触れようとしなが ら、耳を傾けた。 「・・・未明、猿橋町において毒ガスが使用された模様、ガスの種類は、マスタードタイ プとも言われ、地域住民の方は無闇に、肌をさらさぬよう・・・」  ガス?何、何が起きてるの?戦争?戦争が起きたの?  頭が混乱し始めて、とにかくお母さんを起こさないとと思い、抱き上げると、酷い火傷 に覆われ、既に息絶えているお母さんが居た。  今にして思えば酷い娘だと思う。  私は、お母さんの顔に嘔吐し、気がつけば外に出ていた。  見ず知らずのショップで長袖の服を奪い、ただれて痒くなった肌を掻きたくないので、 薬局で包帯をくすねて、顔を覆った。何故かわからない、何故だか分からないけど、みち るに会えばなんとかしてくれそうな気がしていた私は、みちるの居る街へと歩き始めてい た。  酷い疲労と、乾き、チリチリする喉も少しやられているのかもしれない。  行き交う人々は、私に目もくれなかった。まるで、昔見た世紀末救世主なんちゃらのマ ンガに似たような光景になり始めていたが、私の格好は女に見えなかったのだろう、そう いった意味では襲われない自分に感謝した。まぁ、所々ただれてしまっているので、襲わ れることもないだろうけど。  それにしても暑い、このままだと熱射病になると思った私は、目の前に散々襲われた後 と見えるコンビニがあったので、そこに入っていった。 「こんにちは」  誰もいるわけがないのに、変なことを言うと私は自分で自分が可笑しかった。  ”水”何か飲める物は無いかと捜したが、店内には見あたらなかった。プリンとか、ヨ ーグルトの類は、腐って腐臭が立ちこめている。 「奥は・・・」  店員用の部屋にあるんじゃないかと思った私は、奥へと足を運んだ、コンビニの構造か らして、奥の部屋は在庫も置いてあるはずだった。そこになら、何か飲み物が一つくらい 残っているだろうと思った。  キィ、と乾いた音を立てて戸が鳴り、奥の部屋を見る。  綺麗・・・。  即座に私は感じた、目の前に人がいる。綺麗な黒髪に、平安時代にも似た和服。この様 な状況下で、その格好が実に非現実的なのかと言うことを自問できずに、素直に、その美 しさに見とれてしまった。 「待ってたよ」  涼しげな声が聞こえた。女性だ・・・。 「片桐しとかさん」  すっと振り返った女性は、私の名前を呼んで少し口元が笑った。綺麗。肌が白く透き通 っている。こんな状況なのに、こんな時代になっちゃったのに・・・。 「何故私の名前を?」  私はそれしか言えなかった。彼女に圧倒されていた。 「私は、一度あった人は忘れない主義なの。私はリスティア。覚えてないかしら?」  リスティア? 「ごめんなさい」 「謝る必要ないわよ、私の名前は言ってないもの」 「あ、あの・・・」 「なぁに?」 「何で」  あなたはここにいて、私を知っていて、そんなに 「貴女がここに来るのは分かっていたわ、それにここが出会うのに一番いい場所と思えた し」 「・・・?」 「ホラ、前に言ったでしょ、”貴女にはもう一度会う”ってね」  あ、 「思い出したかな?」  あ、あの、「魔女の降る休日」の時の 「初めまして、あの時女の子を借りて語りかけたのが私リスティア、宜しくね」  あの・・・、あの! 「あら、怒ってるの?なんでかなぁ?私は悪い事して無いじゃないの、こんな状況を作り 上げたのはあなた達なんだからさ」  ・・・ 「それよりも・・・。」  彼女は、一回自分の唇を舐めると・・・ 「楽しもうよ♪」  私を押し倒した。 「ん♪、可愛いね、しかも、この状況でも処女で居られたなんて奇跡に近い。君の運は、 実にいい、本当に強運の持ち主だね。」  私に口づけし、服の上から胸をさわり、下腹部へとリスティアは手を回してきた。 「いやっ!」 「気持ちいいのは嫌い?」 「・・・いやっ」 「でも、そう思っていた方がいいかもね・・・」  彼女は、そういうと下腹部を優しく撫でて、ゆっくりと押してきた、気持ちいい。まる で、彼女の手が私の中に溶けていくような感じだった。もっともっと触って欲しいと思い 始めてきた・・・が、  ムシッ  何?  ムシッ、ムシムシムシ、  何かが引き剥がされるような感覚、痛みというよりは気持ちの良さが伝わってくるけど、 コレは一体、私はゆっくり目を開けると、 「君の夢はまだ覚めちゃダメだよ・・・」  リスティアはそういうと、優しくキスをしてきた。絡み合う舌が気持ちよくて思わず首 に手を回してしまった。暫くすると、すっと唇を外し私のかさかさな唇を一舐めして。 「終わり・・・」  と嬉しそうに呟いた。 「何で?」 「君から欲しかった物を頂いたからさ」 「何を?」 「コレだよ」  リスティアの持つ手には白い臓器が握られていた、嬉しそうに私の顔を見て、それを広 げた。見たことのある保健で習った・・・。 「分かるよね?君の子宮だよ」  !、  私はお腹を抱え叫んだ! 「いやぁぁぁぁあっ!!」 「君は実に素晴らしいよ、人間の持つ種の保存機能を一人でこなした。この中にはね、君 の卵子だけで構成された子供が着床しているだよ。」 「ーーーーーーーー!!−−−−−−−−−−−!!−−−−−−−−−!!」  幾ら叫んでも、声にならなかった。  叫んで叫んで叫んで、何度か口から血を吐いたけど、それでも、足りなかった。  私はどこをどう歩いて、ここにたどり着いたんだろう。  暑い、暑くて気が狂いそう・・・。  結局このコンビニで、うずくまったまま何日も経ってしまった。今日が何時なのかも覚 えていない。  みちる、会いたいよ、助けてよ。  ガサ  え、誰か来る・・・。  誰? 「ここに、罠を仕掛けるんですね」 「ああ、そうだ」  誰? 「あん?、誰か居ますね」  チャリという音を立てて私に近づいてきた。 「ああ、こいつもうダメですよ」 「生きてるのか?」 「生きてますが・・・。」  男はまるで、ボロを扱うように私を引っ張って店内に出してきた。 「使えるな」 「ええ、ちょうどいいと思いますよ。」  リーダーとおぼしき人物がしゃがみ込んできて、私を見た。 「生きる意志がないなら、俺の仕事を手伝え、ここで、そういう風に寝てればいい」 そういうと私の周りに何かを置きだし、私の中に詰めだした。 「女か、このご時世やりたいとこだが・・・。」  顔の包帯を少し外し、私の肌を伺って、 「ただれてる奴に興味はないな」  そういって私の”中”にも、詰めていった。 「これで全部、お前にはコレをプレゼントだ」  そういうと、私の手にスイッチのような物を渡し握らせた。 「それで、お前の人生を決めろ、そのスイッチを押せばボン!全部灰になる。」 「押しますかね?」 「まぁ、押さなくてもこのセンサーで分かるからな、一気に殲滅してやるさ」  そうだ、今は戦争なんだ・・・。 「じゃあな、姉ちゃん」  そういうと彼らは、そそくさと去っていった。  私は彼らにとっての使えるかどうか分からない爆弾にされた。が、別な考え方をすれば、 私は彼らによって自らの死を選択できるようになった。  もう、立ち上がることもできない私には、嬉しいことなのかもしれない。  殺されるより、死が選択できるという幸運を・・・。  どれくらい時間が経ったんだろう。 「夕方?」  陽が少し傾き始めたようだ。西日が少し挿してきた・・・。  軽い地を這うような、擦れた音が聞こえる。なんだろう?  何かがここに来る。あいつ等にとっての敵なのかな?  強い警戒の仕方で、片腕の同じ位の歳の男の人が入ってきた、素人目でも付け焼き刃の 訓練を受けているであろう事は、動きで何となく分かった。どこかで見たことのある人、 そう、私は忘れてはいけない人・・・。みちる。  こんな場所でこんな状況で会えるとは思ってみなかった。嬉しさの余り、身体が震える。 「そこまで、怖がる必要はない、僕には戦闘の意志は無い。」   みちるは、私にそういう、違う違うよ、嬉しいの、あなたに会えて嬉しいの。  やだ、震えが止まらない。  みちるはまだ私だと気がつかないらしく少し困った顔をしている。銃を背中にずらして、 二三度、周りを確認して上で 「ホラ、僕は、お前を殺す気はない、何かの病気や怪我なら至急に救護班を呼ぶ。・・・ な。」  と優しく語りかけ手をさしのべてきた・・・。  その時、私は思いだした、今の自分の姿を。きっとみちるは気がついてくれないだろう し、こんな私じゃ嫌いになるかもしれない。イヤだ、それはイヤだ。  ”それで、お前の人生を決めろ、”  あの人の声がまるで神の声のように聞こえた。みちるがそっと手をさしのべ、私に触れ た。私は、さっきの震えの誤解を解きたくて一言 「違う・・・。」  といい、みちるの顔が、全部見渡せたとき、私は何のためらいもなく、スイッチを入れ た。  幸せだった。みちるには、綺麗なままの私が思い出に残っている、私はみちるに会えて 一緒に居られる。私のわがままなのは、よく分かってる。でも、でも、キスしかしてくれ ない優しいみちるに私の気持ちを伝えるには、これが一番の様な気がした。  私はみちると永遠の時を過ごせる。  一緒に死ねる事、死を与えてくれた事、  私は、あの男と、神に感謝した。

魔女の降る休日:
(C)1999 Naoki shimura, eggplant