リスティア・ポイント 「魔女の降る休日」第五章
田沢みちる#


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 こういう事って、実は簡単に起き、非現実のように見えて、いつのまにか受け入れてる。  自分の事を結構図太いと思う・・・。  そう思うときに限って、失った左腕がうずく・・・。  それはとても静かだった。  魔女があの子に降りてから数時間、まるで何かのイタズラのように、何事もなく過ぎて いった。  僕らは悪い冗談につきあったような感じで、誰も「魔女の降る休日」に関して話そうと はしなかった。  そして、翌午前五時のニュースは小さな事故の報道した。 「今日の未明、東京都小金井市のマンションの一室で爆発炎上する事故がありました。こ の事故により、同一室にすむ過激派グループの五人は逮捕され・・・」  なにげない、この報道、ごく普通に聞き流すだけのニュースは、この事故を境に一気に 蔓延していった。  東京町田・国分寺、神奈川の相模原・平塚・宮前区、大分の中津、福岡の久留米市、長 野の伊那市、千葉の流山市など町の大小問わず、小さなテロ事故は一日で二百を数えた。  ・・・それから、この国は内戦状態へと発展していった。  僕は、国分寺のとある部隊に拾われ、自らも生きるために内戦に参加した・・・。  この部隊は何でも隣の町と交戦中で、まずそこを制圧すると、リーダー格が言っていた。  まるで、陳腐なSF映画のように廃れたコンビニ、敵の一部がここにいるとの連絡が入 った。 「馬鹿な奴等だ」  確かにと、僕も思った。何故ならコンビニという場所からして死角になる部分は殆どな く、こっちから丸見えのような状態である。まるで殺されるのを待っているようにも見え る。  僕達は、中の敵に気付かれないように包囲し、準備を整えた・・・。  空は高く、むせるような暑さ、こんな日に自分は何をしているんだろうと思う。この戦 争、いやこれが戦争なのかもわからないまま、僕はここで銃を握り、敵のいるコンビニを 見ている。 「でも、敵も馬鹿とは言いきれませんよ」  と、部隊の中でも主にサバイバルに長けている奴がつぶやいた。 「何故だ」 「まず、コンビニは建物の性質上、正面は、向こう側からは見渡しがいい、こっちからじ ゃ、影が多いですからね。それに、長期戦になった場合は、向こうの方が水と食料のある 分有利と見るべきでしょうね」  確かに、と思う。相手は、長期戦の構えなのかもしれない。そうなると、こちらは不利 になる。 「方法は?」 「相手がライフルを持ってると想定した場合、正面は、狙撃のいい的ですね。横からか、」 「裏か」  隊長は、横に展開し死角から突入する事を決め、配置を指示した。 「カタワ、」  首で、「来い」とかしげ、僕は隊長の側についた。  彼がカタワと僕を呼ぶのは、無論左腕がないせいだが、部隊内で、片輪な奴は僕だけな ので、いつのまにか、愛称になっていた。 「何です?」 「突入までに少し時間がある。いつかの話をしよう」 「・・・この戦争のことですか?」  僕はこの戦争に疑問を感じていた。何故なら、あの「魔女の降る休日」の翌日から、こ の状況に世界が狂い始めた事。あの女の子の言った不気味な言葉。  理由が、見えないにしろ、原因の一端で、あるハズなのだ。 「いつも思うんだが・・・、」  と、いつもの決まった出だしで語りだした、口ぐせなんだろう。次に続く言葉とは、何 ら関係なかった。 「最近お前の言っていることが真実のような気がしてきた。”この戦争の意味”をな」  この戦争の意味、小さなテロから、ここまで拡大した。しかし、この戦争は国とか、宗 教とか民族といった”理由”が存在しなかった。この部隊にしてみても、この戦いがどん な意味をもっているのかは、解らないままであるし、それに勝利したとしても何かが得ら れるわけでも無い。  この戦い自体が何の意味も持たない愚かな事だった。  かと言って辞めるわけにもいかない、やめてしまえば、それは死を意味する。 「この戦争って、いつ終わるんですかね」 「死ねば終わるよ」  死ねば終わる。でも、終わらないものもある。  陽が少し傾き始めた。西日が、気だるい。  隊長の方を見ると、少し首を傾げ「OK」のサインを見せる。 「駐車場位置には、三人配備。カタワは、正面より進入、裏口からの二人と合流して占拠 まぁ場所は小さいから、時間は」 「二分」 「まぁ、そんな所だ」  と、僕の肩をポンと叩いた。合図だ。  入り口に、這わせ腰を低くし、内部を覗く、人の気配は無い。 「うまいな・・・」  一般的に考えて、レジまわり、商品陳列棚の・・・二番目、いや・・・三番目か、あの 柱当たりが怪しい。  ドアをゆっくり開け、影に合わせて進入する入り口付近にトラップは無い。  店内は薄暗く電気は走ってないようだ。腐臭も感じる、生ものは全てダメになっている。 「トマトもダメかな」  ここんとこトマトを食べてない、魚も肉も食べてない。缶詰でもいいとは思うが、あの 強い味付けは好きになれない。  周囲を気にしながらレジカウンターの中に誰もいないことを確認し、レジカウンターの内側へと入る、 「これでひと安心」  これでとりあえず銃撃戦には対応できる。それに、レジの位置は、万引き防止の関係で、 店内を見渡せるようになっている。関係者室まではわからないが、店の中は制圧下に入れ たと考えていいだろう。  ここから眺める限りでは相手の姿は見えない。  僕は銃を構え奥へとゆっくり進んでいった。俺が気になっているのは、三列目の棚、潜 むならここだろうと思う。あの柱なら、こちらの銃機では破壊できない。ゆっくりと、擦 るように歩き三列目をうかがう・・・。 ・・・人?  何かが床に伏せている。それが人だと気付くのに、そう時間はかからなかった。どうや ら怪我をしている。  敵でない保証はないが、怪我人はほおっておけない。  レジに、赤外線サーチを設置し、味方いがいの人間に反応するように設定させてから、 怪我人に近づいた。  一度サーチが、この怪我人を敵と認識したので、一応味方設定にし、もう一度近づいて いった。この熱い時期に、全身を覆い顔すらも解らないように布で隠している。怪しい。 こういった形で騙し討ちをしてくるケースは多聞にあるので、それに警戒しつつ、肩に触 れてみる。軽くピクッっと反応し、少し身体をこわばらせた。 「民間人だな」  自分も民間人なくせに馬鹿な事を呟いたと思った。しかし、こう言って相手を威嚇して おくのも手だと思う。  腹這いにさせるのも困難な、体勢だったので、仰向けにさせようと、一応銃を構え、足 でゆっくり、肩を押していく。 「あ・・・」  っと、力の無い声を発し、ゆっくりと身体を上に向けた。  ん・・・?  顔を覆う包帯の隙間から、僕を覗き込むように目が光った。何かあると思い一応銃を構 え 「こんな時世なんで、こういった形での会話を許して貰いたい。僕には戦闘する気は無いが、 怪しい動きをすれば、攻撃も辞さない。」  こんな至近距離で攻撃もないもんだと思うが、こうしないと、ここでは生きていけない。  怪我人は、少し震えまるで発作でも起きたかのようにガタガタさせだし、包帯の目とお ぼしき部分が濡れ始めた。銃を向けている僕に恐怖している。 「そこまで、怖がる必要はない、僕には戦闘の意志は無い。」  と、再度言っても震えは止まらずに、余計にガクガクさせた・・・。仕方がないと思い 銃を背中にずらし、手を広げ、 「ホラ、僕は、お前を殺す気はない、何かの病気や怪我なら、至急に救護班を呼ぶ。・・ ・な。」  と手を差し伸べると、その怪我人はとても小さく弱く 「違う・・・。」  と呟いた。正直ホッとした。僕は人を殺したくはない、今まででも殺すまでの殺傷はし ていないつもりだ。 「解った、救護班を呼ばせるからな。」  と近づき、傷の具合を確認しようとすると、  カチッっと、軽い音がした。  目の前で身体から何かが吹き出すように弾け、僕の身体にかかった、そして奥の方から 光にも似た輝きと激しい熱と振動が襲い、僕自身もその光に包まれ、身体が弾けて散るよ うな感じがした━━━━━━━━━━━。  僕は死んだのだ。  コレ以降、この地区での内戦は、混乱を極めるようになる。

魔女の降る休日:
(C)1999 Naoki shimura, eggplant