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その日はとても不思議な感覚だった。
心配するしとかを連れ、一駅分の切符を買い、使った事の無い電車に乗る。
横で不安そうに見つめるしとか、僕は何の疑問もなく電車に揺られ、何の疑問もなくみ
ず知らずの駅に降りる。
その駅は閑散としていた、まさか都内から一時間程度でこんな所にこれるとは思っても
みなかった。目の前には山が見える。
「みちる・・・」
しとかはかなり不安そうだが、日の光は心地よく、しとかの考えているような言葉にで
きない不安は何も感じなかった。それ以前に
「魔女の降る休日」がこんなに和やかなものだとは誰が予想しただろう。
僕らは、目の前に広がる山へと足を運び急な坂道を登り、頂上の位置が見失う様なくら
いに山に近づいた時鳥居のようなものが見えた。
「ここなの?」
しとかは、僕の腕をグっと掴み不安そうに見つめる。
「わからない、けど」
多分ここだと思う。あの時聞いた『ここに来れば解る』はここの事を指していると自分
の中で確信している。何だろう、この自信は。
僕は余りにも急すぎる階段をしとかと共に登り、息が切れ、膝が笑いかけたときに登り
終えた・・・。
そこは、頂上というには余りに狭くプレハブみたいな神社があった。
・・・四人の人と共に・・・
その四人は一斉に僕達を眺め、一息ついた。しとかはその視線に少しおびえ掴んでる腕
がより一層強くなった。
そこにいるのは、土方工事の帰りであろう出来上がった親父。病弱で生真面目という表
現が似合いそうな学生。大きな帽子を被った僕達より少し年下に感じる少女。そして、
「君達も”アレ”を聞いてきたのか?」
と話しかけてきた・・・あの番組の司会者
「ども、俺はこういうものです」
と、社交辞令風に名詞を出す。”塚本晋也”・・・やっぱりあの時の司会者だ。
司会者・・・塚本の話によると、ここに最初に来たのは塚本で、最初は訳の解らない茶
番に付き合っている気分になったが、次々とここに集まってくる人を見てある種の確信に
変わったらしい、その確信とは、
「魔女の降る休日」の真実
この日に何が起きるのか?それをここに来た者だけが知る事ができるんだと、少し興奮
気味で僕に語り掛けた。確かにこんな所に偶然にもこれだけの人が集まるのは何らかの作
用があるのだろうという事は見て取れる、しかし、何なんだろう?。この時間になっても、
「魔女の降る休日」のせいだと思われるような事件や事故は起こっておらず、むしろ穏やかだ。
僕らはここで一体何を待つのだろう?
緩やかに何を待つのだろう、先に待っていた彼らは、しとかを魔女だと思ったらしい。
確かにあの”言葉”を聞いていないでこの場にいる彼女は、ある意味”異種”なのだから
そう思われても仕方無いだろう。
「あの人達、なんか怖いよ」
と言ってくる、しとかの気持ちも解らないでもない。
既に僕達がきてから二時間経つ、あれから誰もこない。
あの”言葉”を聞いたと言う事以外何の関連性も無い連中が、ここに集まり”何か”を
待っている。一秒が、何時間にも感じる・・・。
「後一時間待ってもこんかったら、一緒に飲みにいかへん?」
既にできあがりつつあった、土方のおっちゃんが塚本を誘い始めた。
「・・・それもいいかも知れませんね。」
「ぼ、僕は、予備校があるので・・・その」
学生の子が言い出した。別に誰も止めるはずもなかった。これだけ関係というものが希
薄なのだから、止める理由もない。
下の町の方から頂上に向かって心地の良い風が流れたとき、それは起こった。
「ようこそ、魔女の降る休日へ」
誰もがその冷たい声に、パッっと振り向く事はできなかった。帽子を被った少女が冷た
い笑みを浮かべてそう言ってきた。
「魔女か?」
塚本は、腰を低く構えて隙あらばといった体勢を取ったが、少女はそれに怯むような事
はなくそのまま続けた。
「ふむ、思ったより、人数が多いな、ま、一人例外がいるが、特別ゲストだ、許そう、
今日は気分が良い。こうも、上手く集まってくれるとは思わなかった。」
彼女は何でもかんでも知っている風だが、僕にはなにを言っているのかが解らない。多
分この場にいる全員理解してないだろう。
「お前が『魔女の降る休日』を仕掛けたのか?」
塚本がやや喧嘩腰に、しかもジャーナリスト気取りで聞きだした。
「勿論、今回の実験の結果を見るに、いい対象実験だとは思わないか?」
実験?
その少女は僕の方を見て微笑んで
「そうだ、なかなか難しい実験でね、ちゃんと機能しているかどうか机上では、文字ど
おり空論で終わっていたんでね、こうやって試してみたんだよ。」
実験??
「まず、結論から言おう、君達は人類の亜種だ。」
、何を言っている?。
「亜種と言っても、私が遺伝子操作をして埋め込んだ『不可視隔世特殊遺伝子』を受け
継いだ子孫なので、君達はある種の兄弟の様なものだ、が、よくもまぁあれだけの貧弱遺
伝子を受け継いだものだ、確率的には同時代に数兆人の人工がいて一人いればいい確率な
のに、実際はこれだけの人数がいるわけだ、・・・・・・この地域の環境がそうさせてる
んもかもしれないな、後で地質を調べてみよう。」
「おい!」
塚本が叫び少女の前に立ちはだかった。
「俺はお前が何を言っているのか理解できない!」
「バカかお前は」
「なっ!」
塚本の顔がみるみる赤くなっていく。少女は、立ち上がり、回りの一人一人に目を合わ
せてから、きりだした。
「今日一日穏やかだったろ?、気味が悪いくらいに『魔女の降る休日』と言われながら
も、それらしい事故や事件も起きず、終末思想に駆られたバカ共も何も起こさない・・・
いや、今日はそういった事が決して起きない日なんだ。『魔女の降る休日』とは、実は何
も起きない日なんだよ。」
・・・・・・・・・・・・・
「つまり、世界中の人間が今日一日平穏に過ごす事しかできない強制プログラムの中に
いるって事だ、唯一その呪縛から、抜けられるのが、”不可視隔世特殊遺伝子”を受け継
いだ人類。つまり、君達。君らはただ、この真実を知る事ができるだけのひ弱な存在だ、
むしろ、ここに今日来た事をこの先後悔していく事になるだろう。」
「どういう事だ?」
僕が言えたのは、その一言だけだった。
「解らないかな?、私はもう、ドキドキして濡れてくるよ、明日の事を考えるとね」
・・・明日?
「たった一日の平穏な日。それは、事故も事件も起きない素晴らしい一日だ、人は、事
件を起こし、また事件を見る事によって己が内の闘争本能とか、攻撃的な部分を発散させ
ていく。それが全く起きない一日があったとしたら?・・・・翌日にはどんなパーティが
待っているのか?、私はそれを考えただけでゾクゾクしてくる。快楽どころの気持ち良さ
じゃない。」
・・・・何を言ってるんだ
「明日からは人間の本能が見える。私はその話をしたくて、ここに来ただけだ、”不可
視隔世特殊遺伝子”にも、特殊な音に反応するようにしか作っていない、実用以前のシス
テムだ、君らに”生き残るための何か”なんてものは与えちゃいない。さぁ、見せておく
れ君達の真実というものを・・・そして私に感じさせておくれ、どんな快感にも勝る悦楽
の時間を・・・」
少女は軽くイったようにも見えた。少し気持ち良さそうに震え、しとかに近づいて行っ
た。しとかはすっかりおびえきって、俺の影に隠れた。
「・・・君の彼女、才能あるよ、彼女、また会おうね・・・」
少女は、しとかの頭を撫でると、崩れるように倒れ込んだ。
慌てて塚本が近寄ると、真っ青な顔をして、息が細くなっている少女がいた・・・。
少女を救急車に乗せ、病院へと向かって行った・・・。
魔女の降る休日は、終わろうとしていた・・・・・。
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