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このページでは、「蒼きウル」に関しての山賀監督のインタビュー(収録は93年10月頃・ガイナックス会報掲載)を公開した物です。内容に触れている箇所は削除してあります。
山賀プロデューサー「蒼きウル」直撃インタビュー
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Q「ウル」はいったいいつになったら出来るんですか?
Qどーしてなかなかできないんでしょう?
お金がないから。お金がいっぱい必要なんです。でないと映画になんないから。
Q何にそんなにお金がかかるんでしょう?
人件費ですね。だいたい13億から全体で20億はかかると思ってます。
(同席の赤井孝美−宣伝とかの経費除いても。大作って言われる日本映画の倍ですね)
Q作業としては今どのあたりでしょう?
Q内容について、「どんな映画になるんだろう」という質問が多いんです。「王立」の続編だそうですがどうして続編なんですか?
うーん。「王立」のような世界ってのはあとあと使いまわす事を想定して造られた世界なんで、続編も何もこれから先死ぬまで使いますよ。だってすごい便利な世界じゃないですか、未来でもないし過去でもない。ああいうのは財産ですよ。
Q前作「王立」の共通キャラなどは出て来るんですか?
Q「ウル」は主人公の名前ですよね?
いや、違います。誰も主人公の事を「おーい、ウル」なんて呼びませんから。一箇所だけ「ウル」という言葉は出てきます。主人公の過去の大戦中の呼び名だったという感じですね。「赤い彗星のシャア」みたいなもんで。別にシャアは彗星さんという名前じゃないでしょ。
Q今度の主人公はどんな人物なんですか?
前のシロツグの時は、割と造ったというか組み立てた人物だったけど、今度のはもう少し自分に近くなってるかな。もう少し正直な心象風景を描こう思ってる作品なんで。だから割と無口だし、それだけに造ってる人間に近い分だけなかなか描くのは難しい。
Q主人公に感情移入して書かれてるんですか?
感情移入じゃなくて、自分を描いてるだけだから。難しいですよ。シロツグの時は「こんなん俺じゃない」って書いてるから、逆に油断している部分が入っているかも知れないけど。今回はむしろもっと内面的なものに入ってるから難しい。
Q今回のストーリーはどんなものになるんですか?
僕は基本的に「ストーリー」っていうのはあんまり好きじゃないんで。絵的なもんでスペクタルであればいいんじゃないかなと。
Q山賀さんは脚本以外にどんなお仕事をされるんですか?
今は現在、CGを少しやってますけどそれだけですよ。
Qどんな映画にしたいですか?
Q雑誌などに情報が載りませんが、どうしてですか?
進んでないからっていうのが大きいけど、先になっても載せないですね。めんどくさいから。与えられるべきものを与えられ過ぎる今日この頃ですから、そういうストイックなのもいいんじゃないですか。
Qどうして遅れてしまったんでしょう?皆早く見たいと思ってるんですが。
Qそれまでガイナックスの映画はひとつも見られないんでしょうか?
ガイナックスっていっても、そんなでかい会社じゃないし、スタッフそれぞれ別の企画で動いている事もあるし、わかんないじゃないですか?
Q皆「トップ」のようなガイナックスのアニメをもっとみたいと思ってるんですが。
たくさん見すぎですよ。こんなのたまにしかしないの。もうちょい禁欲生活を送ってほしいですね。
Q3年に一度くらいしか見られないなんて、悲しいおっしゃりようですね。
こういうのはお母さんの青春時代に見たものが、子供の青春時代にまたあるとかね。
Qスタッフ全員が揃った作品は当分ないということでしょうか?
ガイナックスのスタッフ全員とは捉え方によるからね。あと「ナディア」が100本できたって、俺には関係ないから。
Qこの映画では山賀さんの作りたいものを作ると。
皆の見たいものになるかどうか、シンクロするかどうかはもう偶然の一致でしかないから。僕は別に皆の見たいものを作ってるわけじゃないんで。
Q山賀さんの作りたい映画とは具体的にはどんなものでしょう?
今までにない、普通の生活してて見られないものが見られるのが映画館だと思うから。2時間の間、普通じゃ見られないもんが見られるからお金払うんですよ。日常には気持ちよくない事が多すぎる。普通の生活に満足している人は映画を見る必要がないから。
Q山賀さんの考える普通じゃないものってどんなものなんですか?
僕自身が普通じゃないもんで。俺が普通だなって考えることって、たいてい普通じゃなかったりするんで。
Q自分の普通じゃないところって、どんな時に気が付くんでしょう?
人に言われて。反応が人と違いますね。僕が右足あげるようなことと、人が右足あげるようなこととは明らかに違うようですから。主観からいったら普通なんだけど。
Q映画の中では主人公は普通じゃない人になるわけでしょうか?
俺は俺なりに普通の事をやっているつもりなんだけど、皆が「変わってるー」と言ってくれてお金払ってくれるんなら、応えてることになるかなー。
Q子供の頃はどんなふうに普通じゃなかったんですか?
皆と一緒にやろうと思ってちがうことやってたなぁ。単に外れてた。「クレヨンしんちゃん」が流行っている時に「カリアゲくん」読んでるような。変わっているというよりズレてたな。小学生高学年の頃はオカルトに傾倒していた。「ノストラダムスの大予言」とか「ツタンカーメン王の呪い」とか好きだった。ピラミッドパワーの謎なんか夏休みの自由研究で提出してたな。
(赤井−16ミリワインダーに指はさんで紫色に腫れたのを、「これで直る」と主張してボール紙でピラミッド作ってた。)
あの時皆にピラミッドの比率を聞いたのに、誰もしらねえんだもん。
(赤井−当たり前だろ。知ってるわけはない。そんなこと聞いてるヒマに病院行けばいいのに。)
中学に入ったらパニック映画の大ファンでたくさん見た。高校の頃には好きな物なくなっちゃった。
Qどうして映画監督になりたいなんて思ったんですか?
「カプリコン1」って映画見た後に本屋で映画雑誌立ち読みしてたら、淀川長治のコーナーがあって「映画監督になりたいという手紙をよくもらうが、そんな方法は無い。しいていうなら同じ映画を10回ずつ見ることだ」と書いてあった。すごいなぁ、よしやってみようと思ってやってみたら、「あ、これなら俺でもできるわ」と思って決めた。
Q10回も見て飽きませんか?
飽きるけど、飽きるとこから見えて来るものがある。「なんでこんなもん作ってんのかな?」とか「みんなほんとに喜んでんのかな?」とか「こうすればお客は笑うんだな」とか「俺ならこうやるのにな」と思うようになってくる。劇場で周りのお客さんの反応を見ながら10回見る。
Q「ウル」は10回見ても飽きない映画になるのでしょうか?
基本的にはそう思ってんだけど、わかんないね。10回も見る奴は異常だけどね。
Q1日も早く「ウル」を完成させていただきたいです。
あんまり急いでないです。自分のために映画作ってるから。
Qこのガイナックスで作るのが一番いいわけですか?
ガイナのスタッフがいいとは限らないけど、今はそれがいいと思っている。3年後・10年後にもいいと思っているかどうかはわからない。庵野も監督降りちゃったし、どうなるかな。先のことはわからないから。
Q順調との事ですが、メドはいかがですか?
年内にはあげたいです。一週間異常先のことはわかんない。明日死ぬかもしれないでしょ。
Qいつかは出来ないと、お客さんが待ちきれないのでは?
何年かたって公開したときに見てくれるお客さんは、今のお客さんとは違うから。
(赤井−山賀が今やっていることは、一人でこつこつトンネル掘っているようなもんですよ。たとえ細くても開通したときに皆が力を合わせてりっぱなものに出来るようになるんです。具体化する前の段階をしぶとくやるのが山賀の山賀たるところかな。どんなものになるかは誰にもわからないけど、誰にも見たことのないものを作る。その具体化は脚本があがったときかな。今の段階は「青の洞門」の修行僧で、不思議なことをしている人でしかないけどね。)