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清水義範作品

 清水作品との出会いは、大学4年の初冬です。何となく立ち寄った本屋で目にした文庫本の

タイトルから、よくある日本語講座本の類いと信じていたのですが、手にとって読んだ瞬間から

めくるめく清水ワールドへと誘われてしまったのです。気が付くとニヤニヤしながら立ち読み

していましたから、さぞかし変な人に見えたことでしょう。

 それ以来、1冊読み終わる毎に本屋へと通う習慣がしばらく続きました。

 彼は「パスティーシュ」というジャンルを確立した人ですが、もちろんそれ以外のジャンルにも

楽しい作品が数多くあります。しかし、やはりパスティーシュが彼の最も得意とする分野ですので、

ぜひこのジャンルから読み始められることをお勧めします。

その1:特徴

 彼の作品の特徴として私が挙げておきたいポイントは、

 (1)ホントなのかウソなのかがよくわからなくなるほどまでに読者を惑わせる、構成力の巧さ。

 (2)観察眼の鋭さ。

 (3)なぜか「猿蟹合戦」がよく登場する。

 の3つです。

(1)について;これは彼が元々SF出身であることが影響しているのではないでしょうか。

  特にSFミステリー物の影響を強く感じます。

(2)について;この人は本当に人物観察が好きなんだなあ、と思わせる箇所がいくつもあり

  ます。御自身でもそういうことを作品中で書いておられますし、やはり作品中でイッセー尾形が

  好きだと書いておられることからもわかります。が、観察したことを一つの作品に昇華・結実

  させる手法は、イッセー尾形よりもむしろ嘉門達夫に近似性を感じます。

(3)について;残念ながらこれについてはその理由がわかりません。

その2:分類

 彼の作品は、大雑把ですが以下のように分類できます(あくまで私の考えです)。

 (A)パスティーシュ作品

 (B)エッセイ的な作品

 (C)それ以外のジャンルの作品

(A)パスティーシュ作品;彼の名を世に広く知らしめることになった、彼が最も得意とする分野。

  これはさらに細分できます。

  (i)狭義のパスティーシュ作品。パスティーシュの本来の意味である「模倣」に沿った作品。

  (ii)広義のパスティーシュ作品。清水氏自身が「パスティーシュ」を拡大あるいは発展的に解釈して

     確立した分野と言えます。(もちろん「狭義」であってもパスティーシュという分野を確立した

     のは清水氏なのですが、それをさらに発展・進化させたということです)

(B)エッセイ的な作品;ここには、マンガ家・西原理恵子氏とのコラボレーションによる一連の作品群

   (私は勝手に「学科シリーズ」と呼んでいます)や、私の最も好きな「清水義範の作文教室」など、

   あるテーマに沿って純然たる彼自身の文体で書かれた作品が入ります。

(C)それ以外のジャンルの作品;SFもの、学園ものなど。パスティーシュ以前の作品が殆どです。

 私は(C)についてはあまり読んでいませんので、A、Bについてのみ具体的な分類を試みたいと思いますが、

この続きは後日・・・m(__)m

その3:マイベストランキング

 私の好みによるランキングです。お読みになる際に少しでも御参考になれば幸いです。

第1位:『清水義範の作文教室』 「その2」による分類:B 所収:単行本

 コメント:人に物を教えることの難しさと素晴らしさを教えられました。子供達が作文にのびのびと取り組める

      ようになっていく姿が読んでいて楽しいです。読書感想文についての清水氏の批判には心から納得

      させられます。さすが、教育大の国語科を卒業されただけのことはあります。

第2位:『秘湯中の秘湯』 「その2」による分類:A-i 所収:新潮文庫『秘湯中の秘湯』

 コメント:温泉ガイドブックをパスティーシュした作品。ホントに行ってみたくみたくなるような(?)温泉の

      数々。秘湯っていうからにはこのくらいでなくちゃあ、と秘湯ブームをせせら笑うかのようなところが

      また良い。ちなみに私の母はこの本を読み、本当にこんな温泉が実在すると信じて血眼になって

      地図を探したらしく、後になって私が怒られました。

第3位:『人は死して』 「その2」による分類:A-ii 所収:新潮文庫『名前がいっぱい』

 コメント:名前をテーマにした作品群の中の一編。この作品では戒名を扱っているのですが、主人公が家独自の

      しきたり(?)で「なんちゃって戒名」をつけることになり、奮闘する様が笑える。ラストのオチが

      傑作。

第4位:『神々の午睡』 「その2」による分類:A-ii 所収:文庫(同名タイトル、上下巻)

 コメント:清水氏にかかるとパスティーシュできないものはない、ということの見本のような作品。

      各々の宗教で笑わせてくれるだけでなく、宗教とは何かということを考えさせてくれます。

      クラシック音楽好きの私にとっては『神々の黄昏』や『牧神の午後への前奏曲』を連想させる

      タイトルからして笑えました。

第5位:『蕎麦ときしめん』「その2」による分類:A-i 所収:新潮文庫『蕎麦ときしめん』

 コメント:清水氏がパスティーシュ小説という分野を開拓した、記念すべき作品。そんな作品を第5位に

      ランク付けしてしまう私もどうかと思いますが(^^;)。しかし、どこでもあるんですよねえ、

      地域コンプレックスというのか、はたまた地域性自意識過剰症候群とでもいうべきものは。

      ないのは関西人くらいでしょうかねえ。

第6位:『虚構市立不条理中学校』 「その2」による分類:A-ii 所収:文庫(同名タイトル、上下巻)

 コメント:分類で迷ったのですが、一応パスティーシュの延長にある作品と解釈しました(片足をCに

      突っ込んでるような感じですね)。タイトル通り、中学生のいる一家に不条理な出来事が次々と

      起こる、一種の冒険物です。SFの影響が色濃く出ています。。というよりそのものではないかと

      思えるくらいなので分類で迷ったわけです。

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