書き散らかしその1:シェヘラザードCD聴き比べ(『e-mailかわら版』各号より抜粋)
※『e-mailかわら版』とは、私が千葉フィルのコンマス時代に作っていた非公式のメールマガジンもどきです。
---vol.4(1997年4月29日発行)より---
一枚目は、ずばりこれです。
カラヤン/BPO/シュヴァルベ(Vn)
初めて聴いた演奏ということもあり、どうしてもこれが基準になってしまうので、トップバッターに選ばせていただきました。
ま、カラヤンらしく、ソツなくまとめてある、 という感じでしょうか。BPOの能力を存分に引き出していますしね。
ソロはコンマスのシュヴァルベが弾いています。さすが、の一言に尽きます。ただし、解釈はカラヤンのものだという感じが
ありありと伝わってきますけど。 かなり大胆にいじってあるし。その是非は別として、いい演奏ではあります。
---vol.5(1997年5月22日発行)より---
今回の一枚はこれ。
ラハバリ/チェコpo./スーク(Vn) (COCO-6772/1988年、プラハ/デジタル録音)
ええ、そうです。ご想像のとおり、ミーハーな私はスークの名につられて買いました。はっきりいって期待したほどじゃ
なかったな。 というのは、じつはそれほどソリスティクではなく、結構オーソドックスな解釈だったから。でも、そこが
チェコ人らしいという気もするし、うまいからいいか。
オケのほうは、音色が美しく(特に弦。さすがチェコ!)、統制がとれ ているという印象を受けました。解釈も抑制が効いていて、
お洒落な シェヘラザード、といった感じでしょうか。ただし、アンサンブルが乱れたり、響きが損なわれバランスがひっくり
返るということがない反面、激しさには欠けるというのが正直な感想です。
---vol.6(1997年6月20日発行)より---
テルミカーノフ/NYP/Dicterow(Vn) (RCA VICTOR,09026-61173-2)
いやもうなにしろ、笑えるなんてもんじゃありません。大爆笑のシェヘラザードです。とにかく濃い。そして、部分的に
ではあるが、匂ってきそうな程クサイ。
まず冒頭から、笑わせてくれます。金管が強くて、弦がほとんど聞こえません。特にテューバが気合い入りまくりです。
つづいて出てくるVnソロ。3連符はまるで転げ落ちるかのように速いです。 かと思うといきなりためがあったりして、いやー、
くさいのなんの。 ついでに言うとハープのアルペジオもやたら遅くて(ごく一般的な演奏がボロロン、という感じだとすると、
ボロロロロロロン、てな感じです)、くさいくさい。
こうなってくると、この後は一体どうなっていくんだろうかと、 大きな期待と一抹の不安をもって引き込まれていきました。
そう いう意味ではこの冒頭1分23秒は大成功と言えます。ところが、 そんな期待に反して、聴き進んで行くと意外にも普通の
演奏で、 ちょっとがっかり(?)。しかし! やはり期待は裏切られなかったのです。3楽章の冒頭、Vnの旋律はまるでマラ5の
アダージェットを 連想させるかのようなテンポ、そして滞留。いやー、濃いですねー。 かと思うと、木管による第2主題の
テンポはやたら速くて、このコントラストには驚かされました。
しかししかし、こんなものでは済まないだろうと思いつつ聴き続けていると、やはりやってくれました。4楽章、練習記号Kの
ところ。低音楽器群がときどき相の手を入れるところですが、そこのテューバが、何事かと思うくらいの大音量です。そして、
クライマックス、船が難破するところ(練習記号Y)。タムタムが入る小節のティンパニが、ブラ1の冒頭のようなテンポで叩き
始めたんですから、 ただただ唖然とするばかり。敢えて言葉で書くなら「ダン、 ダン、 ダン、ダン、ダンダンダンダン・・・」
てな感じです。
全体的には、色彩感あふれるいい演奏ではないかと思うのですが、 いかんせん濃い部分が多くて、またその濃さ(というか
しつこさ)が 半端じゃないので、どうしても笑いが出てしまうという演奏です。 それから、カップリングの「ロシアの復活祭」も
含めて、テューバが大活躍なので、テューバ奏者の方はもちろん、金管フリークの方、低音楽器フリークの方(ってどんなんや?
....一人ボケ・ツッコミ)にもお奨めです。
---vol.7(1997年8月24日発行)より---
もう演奏会は終わってしまいましたので、今回で打ち切りにしたいと思います。
今回は、私の選ぶベスト3です。私の持っている11枚のCDから選びました。
1位 チェリビダッケ指揮 シュトゥットガルト放送so.
2位 フェドセーエフ指揮 モスクワ放送so.
3位 プレヴィン指揮 ウィーン・フィル
1位のチェリビダッケのものは、ライブならではの緊迫感がたまらないのですが、仕上がりはライブとは思えない見事な出来
です。Vnソロに 関して言うと、ライブでは普通やらない(らしい)フラジオレットまでちゃんと楽譜通りやっていて、しかも
バッチリ当たっていて度肝を抜かれてしまいます。
2位のフェドセーエフのものは、まさに千一夜物語をみているかのような色彩感溢れる演奏です。ソロは木野雅之が弾いて
います。うまいですねぇ。 ただし、フェドセーエフのコンセプトと木野のコンセプトが若干ずれているような気がしないでもない。
3位のプレヴィンのもの、これは異論が多いところでしょう。ウィーン・フィルのシェヘラザードは、ロシア物のしつこさ、
泥臭さがあまり感じられず、物足りない気もするのですが、下手に泥臭いだけの演奏より、この方がずっといいという見本の
ような演奏です。きれいで、ちょっとおしゃれな、 でもちゃんと力強さもあるシェヘラザードです。ソロはコンマスのキュッヒル
です。