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朝倉蕎司 1989 「流行り唄の誕生−漂白芸能民の記憶と近代−」 青弓社
- 著者は、芸能や犯罪ネタに強い評論家。手強そうなサブタイトルがついているが、もともと雑誌の連載ということもあり、それほど難しいところはない。民衆芸能・大衆娯楽の土台のようなところから、歌に焦点を当てるというスタンスの本はあまりない。
石川弘義(編) 1981 「娯楽の戦前史」 東京書籍
- 戦前の日本人の生活において、娯楽がどのような位置づけ・役割を担っていたのかの大枠をつかむことができる。加えて、当時の日本人の生活水準・構造との関連で論じられている点が有用。余暇・生活という視点は、ポピュラー音楽研究においてもっと重視されてよい。品切れ残念。
*本書中の都市生活者の生活構造に関する論考は、「生活文化論への招待」(寺出浩司・1994・弘文堂)に再録。
加太こうじ・佃実夫(編) 1979 「流行歌の秘密・増補版」 文和書房
- 思想の科学研究会が1950年に出版した「夢とおもかげ」の中から、流行歌に関する部分を抜き出し、さらにその後の楽曲についての論考を加えた論文集。大衆文化をバカにする風潮の強かった時代において、きちんとした研究を行ってきた同グループの仕事は無視できない。
北川純子 1993 「音のうち・そと」 勁草書房
- 音楽学と社会学がどのように結ばれ、どのような発展をしてきたのかが、わかりやすくまとめられている。いわゆる歌謡曲については触れられていないが、音楽についてきちんと考えようとする人は、本書を押さえていた方がよい。
北中正和 1995 「にほんのうた−戦後歌謡曲史−」 新潮社
- 目配りよく・要領よくまとめられており、ジャケット写真なども豊富。しかも、巻末には参考文献一覧に加え、人名索引までついている。値段の安い文庫本で、ここまでしてくれれば文句のつけようがない。ちなみに、本書は文庫書き下ろし。
小泉文夫 1984 「歌謡曲の構造」 冬樹社 → 平凡社(文庫)
- 歌詞の内容分析が中心であった、初期の日本のポピュラー音楽研究において、音楽学からの分析を行っていたほとんど唯一の研究者。歌謡曲の音階構造の中に、日本の伝統的な音階構造の存在を見いだした。「ヨナ抜き」ということばが一般的になったのは、彼の功績であるといってよい。
園部三郎 1980 「日本民衆歌謡史考」 朝日新聞社(選書)
- 著者は、「下手でもいい、音楽の好きな子どもを」という本で有名な、音楽評論家・音楽教育研究者。北中の本が対象としていない、戦前の流れが確認できる。戦前史については類書も多いが、内容の充実度と読みやすさのバランスのよさという点からおすすめする。
橋本治 1990 「恋の花詞集−歌謡曲が輝いていた時−」 音楽之友社 → 筑摩書房(文庫)
- 「桃尻語訳・枕草子」で有名な、天才・橋本が昭和の名曲について語ったもの。ハードカバーで450ページもあるが、それは、60曲あまりの歌詞を、エッセイの部分よりも「大きな活字+ゆったりした行組み」にしているからである。そのことからもわかるように、本書は歌謡曲への愛にあふれた「詞集」なのである。
平岡正明 1996 「中森明菜−歌謡曲の終幕−」 作品社
- 山口百恵=菩薩論で有名な評論家。平岡の本はどれを読んでも楽しいが、独特のスタンス・文体のために読者を選ぶところがある。本書は各誌に寄稿したものを集めたもので、平岡の歌謡曲の歴史観および方法論の、基本とその応用を知ることができる。
藤井淑禎 1997 「望郷歌謡曲考−高度経済成長の谷間で−」 NTT出版
- 著者は日本近代文学の研究者。前著「純愛の精神誌」(新潮社)で部分的に触れられていた、昭和30年代歌謡曲について、よりつっこんだ論考になっている。「集団就職」で都会に出てきた若者と歌との関係を主軸に、音楽と時代との関係を、インタビューなども行いながら解きあかしている。
増井敬二(編著) 1980 「データ・音楽・にっぽん」 民音音楽資料館
- 約20年前の出版ということで、データ集としては古いものになっている。しかし、戦前・戦後の各種楽器の生産量からラジオ番組の聴取調査結果さらに文化庁予算の動きまで、音楽に関する各種データが一度に見渡せるのはとても便利。
溝尾良隆 1998 「ご当地ソング讃−魅力ある『まち』にはいい歌がある−」 東洋経済新報社
- 著者は立教大学観光学部教授で、本書は歌謡曲の歌詞を、観光論の視点から論じたもの。同時に、見田の方法論の応用編といえよう。内容面でも、構成に過不足がないだけでなく、方法論上の問題について補論が設けられており、初学者にとってはわかりやすい。
見田宗介 1978 「近代日本の心情の歴史−流行歌の社会心理史−」 講談社(文庫)
- 「日本のポピュラー音楽」研究のひとつの基礎。本書を読まずに歌謡曲を語ることはできない。方法論的には、歌詞の内容から抽出されたモチーフの分析。そこから、明治維新(1868)に始まる日本の近代と日本人の心のかたちを浮きあがらせようとしている。品切れ無念。
三井徹(編・訳) 1991 「ポピュラー音楽の研究」 音楽之友社
- 外国の代表的な研究者たちの論文を集めたもの。ある程度、洋楽や学問的な文章に慣れないと、歯ごたえがあるかもしれない。しかし、ポピュラー音楽研究における多彩なアプローチを実感することができる。最新の研究をまとめたパート2の出版が望まれる。
南博(編) 1988 「近代庶民生活誌 8 遊戯・娯楽」 三一書房
- 明治以降の日本人の生活をテーマにわけ、それに関連する一次資料を選択・掲載したシリーズ。戦前の論壇・研究者・関係省庁などが、娯楽問題をどのように考えていたのかがわかる。が、採録されている明治期からのレコード会社のパンフレットを眺めているだけでも楽しい。
安田寛 1999 「日韓唱歌の源流」 音楽之友社
- 著者は、日本人と西欧音楽との関わりを、キリスト教布教・賛美歌というルートから追い続けている研究者。一見、ポピュラー音楽とは関係なさそうだが、上記のルートから、「古賀メロディ/演歌=韓国起源説」という俗説がどうして成立したのかを解きあかしている。
山中恒 1985 「ボクラ少国民と戦争応援歌」 音楽之友社
- 妹尾河童の「少年H」中の事実誤認に対し、詳細な反論本を書いたことで有名な児童文学者。本書では、自身の体験を中心に、戦前戦中の子どもたちの音楽環境について記している。ただし、音楽そのものより、音楽を通して軍国主義の非人間性を批判することに主眼がおかれている。
吉野健三 1978 「歌謡曲−流行らせのメカニズム−」 晩聲社
- タイトル通り、「業界の暗部をえぐる」というものだが、全体の1/3が資料編になっているというヘン(失礼!)な本。しかし、流行歌についてどのような検閲がされていたのかがわかる資料が多く便利。・・・それにしても、本編自体は現代の話で、資料は戦前のものが多いというのは謎である。
オリコン年鑑
- 日本のヒットチャートやCD売り上げの動向を知る上で、もっとも一般的な雑誌の年間データ集。データ源としての「オリコン」にはいろいろと問題のあることが指摘されているが、とりあえず、ここから始めるしかない。
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