『バビル2世』

●作者   横山光輝(よこやま みつてる)
●初出 「週刊少年チャンピオン」(秋田書店刊)
1971年28号(7月5日号)
1973年47号(11月12日号)まで連載
※1973年32号(7月30日号)のみ休載
 
  『バビル2世』は1971年に横山光輝氏が超能力を題材にして描いたSF漫画。
作者自身が愛着した作品であり、漫画家生活中期の傑作と言われている。
 5000年前に建てられたバベルの塔に招かれ、三つのしもべと特殊な能力を授かった主人公・バビル2世(浩一)が宿敵のヨミと超能力戦を繰り広げる。高揚感溢れる超能力対決、しもべたちが暴れる派手な戦闘シーン、転じて頭脳戦での静寂。このような明瞭なコントラストと躍動的な展開で多くの読者をひきつけた。 2年半に渡る連載の後、1978年に続編として『その名は101』を「月刊少年チャンピオン」にて連載した。

 ■漫画を原作として制作されたアニメーションは以下の3作。
  1973年 東映動画によるテレビシリーズ全39話
  1991年 オリジナルストーリーのビデオ(全4巻)
  2001年 テレメディア制作のテレビシリーズ全13話

 ■スピンオフタイトルの漫画が現在連載中
  2010年2月 『バビル2世 ザ・リターナー』 作・吉田賢(よしだ たかし)氏
    「ヤングチャンピオン」(秋田書店刊)掲載   応援しようぜ!
●話題
1) 浩一くんのお誕生日について
2) 『バビル2世』第4部の単行本化について 
1) 浩一くんのお誕生日について
4月2日。 論拠は次の通り。
東映動画テレビシリーズの「危うし!!怪鳥ロプロス」(第14話)の劇中に、古見家が浩一の誕生日を祝うくだりがあり、放映された4月2日(1973年)が誕生日としてファンに語り継がれている。
制作で誕生日という精密な設定があったのかは不明だが、1979年に発売されたロマンアルバム(※)『バビル2世』(徳間書店刊)で浩一のプロフィールとして誕生日が紹介され、当時のファンに定着した。
以降ファンは4月2日を誕生日として祝い、古見家と浩一との永世変わらぬ絆を信じ祈りを捧げる。

(※)ロマンアルバムは「テレビランド」の増刊として1977年の第1号『宇宙戦艦ヤマト』を皮切りに刊行された徳間書店の人気シリーズ。「アニメージュ」創刊の先火となった。設定資料、カラーグラビア、折込ピンナップ、書き下ろし、声優や制作スタッフらのインタビューなどが満載されており、ファンにとってはその名の通り夢のアルバムであった。


2) 『バビル2世』第4部の単行本化について
作者にその気が無かったため、第4部のみがチャンピオンコミックスへの収録が甚だしく遅れた。
詳しくはこちらへ。
 タイトルは『バベル2世』の予定だったが、編集担当が間違えて『バビル2世』になった。当時秋田書店で編集担当をしていた綿引勝美(わたびき かつみ)氏(現・株式会社メモリーバンク代表)が自ら明らかにしている。(-C) 
 週刊少年チャンピオン(秋田書店)の1971年28号(7月5日号)が初出、以降1973年47号(11月12日号)まで連載。第1部から第4部までの4部構成になっている。当初は4回程度(約1ヶ月)の連載予定(−F)だったが、好評につき延長され、期間にして2年5ヶ月、総ページ数2624ページ(外伝40ページは含まず)の長期連載になった。この間の休載は第3部終了後の1度のみ(1973年32号・7月30日号)で、33号より第4部が開始されている。

 物語は5000年前に地球に不時着した異星人・バビルが建てたバベルの塔に、現代の少年・主人公の浩一が後継者として導かれるところから始まる。高度な技術を備え持つ塔によって、浩一は潜在ていた能力を引き出され、三つのしもべを従える超能力者・バビル2世となり、同じく超能力者であるヨミと因縁の闘いを繰り広げていく。 『バビル2世』の大要はこの超人二人の戦いであり、伝説の塔、三つのしもべ、超能力という要素を織り交ぜて全編をこの骨組みを貫いて描かれている。 迫力ある超能力戦や、三つのしもべが大暴れする戦闘シーンなど、この頃の作者の特色であるスピーディなアクションと、持ち前のテンポ良く歯切れのいい展開で人気を集めた。第3部連載中に放映開始されたTVアニメーションが人気をさらに押し上げ、カラーページで少年チャンピオンの巻頭を飾ることが多くなった。同時期に竣工した秋田書店の新社屋が“バベルの塔”と呼ばれるほど、『バビル2世』の功績は大きかったという。
いつからいつまでが何部で、何巻に何部が収録されてるのか、
ここで整理して下さい(笑)。第3部と外伝の「」はサブタイトル。
連載の記録と収録について
週刊少年チャンピオン
連載期間

ページ数
収録場所
チャンピオン
コミックス
豪華版
文庫版
第1部 1971年28号(7月5日号)〜
1972年6号(1月31日号
628 1巻〜3巻 1巻〜2巻
第2部 1972年7号(2月7日号)〜
1972年35号(8月21日号)
534 3巻〜6巻 2巻〜4巻
第3部 「暗黒魔王の巻」
1972年36号(8月28日号)〜
1973年31号(7月23日号)
1162 6巻〜11巻 4巻〜7巻
第4部 1973年33号(8月6日号)〜
1973年47号(11月12日号)
300 12巻 8巻
外伝 月刊少年チャンピオン
「恐怖の予言の巻」
1973年5月号
40 11巻 8巻
『その名は
101』
月刊少年チャンピオン
1977年10月号 〜
1979年12月号
1055 1巻〜5巻 1巻〜3巻
 人気絶頂のまま第4部の連載がスタートするが、「戦いがマンネリ化した」(−D)と感じた作者は編集部に自ら終わりを告げて連載を終わらせる。バビル2世の戦いはここに終結するが、足早に収束させたストーリーに作者自身が満足できず、このことが単行本化の妨げになり、第4部のコミックスは長らく出版されず、未読のファンからは“幻の〜”と称されていた。1986年から刊行された秋田コミックスセレクトの第8巻として収録されたのが初の単行本であり、チャンピオンコミックスの第12巻として発売されたのは1995年であった。

『バビル2世』の連載終了から4年後(1977年)、「月刊少年チャンピオン」(秋田書店)に、再びバビル2世が主人公として登場する漫画『その名は101』(そのなはワンゼロワン)の連載が開始される。バビルの続編と位置づけられているものの、しもべとバベルの塔は出さないという秋田書店編集部からの制限があり(−G)、浩一の通称を“101”にしたり、『バビル2世』では殆ど描かれなかった浩一の心情を描くなど、「新しいものを描くつもり」(-B)でこれまでと異なった作風に仕上げている。この連載では浩一に「山野」という姓が与えられているが、同姓同名のSF作家とは無関係である。
 『バビル2世』が作者のお気に入りの作品であることは商業各誌のインタビューや談話に記録されている。また第4部を終わらせるにあたっては「どんなに愛着のある漫画でも、やめ時というのがあるんですよ」(−D)と当時の心境を語っており、『バビル2世』第4部と『その名は101』は執筆当事の作者の心情を重ねて鑑賞することをお勧めする。 幾度となく対決した両雄、浩一とヨミの終焉に違った側面が見えてきて面白い。

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 東映動画(現東映アニメーション)とNET(現テレビ朝日)によって制作され、昭和48年1月1日から同年9月24日まで9ヶ月間に渡って全39話を放映した。『魔法使いサリー』から続く東映の魔法少女シリーズが放送されていた時間帯であり、12月に終了した『魔法使いチャッピー』に続いて放映された(-H)ため、少年誌に連載されている『バビル2世』が少女たちの注目を浴びた。 現在の中年女性ファンの殆どが本作品のファンであり、バビル2世ファンに占める割合は大きい。男性ファンが圧倒的に多い横山作品にあって珍現象であり、作者本人も「少年向けに描いたのに(略)これには私もわからない」(-I)と語っている。
TVシリーズ「バビル2世」の制作に関して
制作 (株)東映・NET(現テレビ朝日)
制作担当 江藤昌治(第1話〜第39話)
三沢徹夫(第7話〜第39話)
原作 横山光輝
企画 斉藤侑(第1話〜第16話)
高見義雄(第16話〜第39話)
プロデューサー 宮崎慎一(テレビ朝日)
小沢英輔(テレビ朝日)
キャラクターデザイン 荒木伸吾
音楽 菊池俊輔
効果 TFCグループ
選曲 宮下 滋
現像 東映化学
本放映について
放送系列 NET(現テレビ朝日)系
放送期間 昭和48年1月1日〜同年9月24日
放送時間 放送時間毎週月曜日 午後7時〜午後7時30分
(地域によって異なっています)
 「少年の勇気と正義を愛する心を描く」(−D)という制作意図に沿い、主人公の平和への強い信念や友愛を強調した勧善懲悪のドラマに脚本される。荒木伸吾氏による独特の甘いマスクも加わり、超能力という特殊な武器を抜きにしても十分際立つ」キャラクタに仕上げられた浩一だった。よって対局するヨミは非情な悪相かつ不健康な容姿にデザインされている。
主な声の出演
  バビル2世(古見浩一) ・・・・・ 神谷 明
ヨミ ・・・・・ 大塚周夫
古見由美子 ・・・・・ 野村道子
由美子の父 ・・・・・ 北川国彦
由美子の母 ・・・・・ 坪井章子
ロデム ・・・・・ 野田圭一
山口奈々
コンピューター ・・・・・ 矢田耕司
 超能力者が主人公となるTVアニメはこれまでになく、制作スタッフは超能力ものの先駆者として苦労を余儀なくされるが、浩一役・神谷明氏の好演、荒木伸吾氏の絶妙な作画、水木一郎氏が歌う主題歌(音楽は菊池俊輔氏)が人気を集め、漫画にない「音」と「動き」が魅力的な作品であった。原作で浩一を塔に案内した女性がロデムの二次形態だったり、重症の浩一の手当てをした古見医師のご令嬢がヒロイン役だったり、原作の漫画では殆ど出てこない女性キャラクタが毎回登場したことが少女ファンへ親和性を与えたといえる。浩一は古見医師の甥という設定になっており古見の姓を名乗っている。いとこ同士となる由美子と浩一が互いを想う切ないシーンがあるのも東映動画版の特色である。
 しかし、少女人気を得た一方で、視聴率を上げるために第8話から登場した戦闘スーツ、戦闘機(バビル2世号、バビルカーと称されていた)は特に漫画のファンには受け入れ難く、また最終話(第39話)が矛盾撞着な印象を鮮明に残して終わるなど、視聴者に多くの疑問を残した作品でもあった。
全39話のサブタイトル
 
タ イ ト ル
放送日
第1話 5000年前からの使者 1973年1月 1日
第2話 恐怖の岩石巨人ゴーリキー   1月 8日
第3話 暗黒の帝王ヨミ   1月15日
第4話 三つのしもべたち   1月22日
第5話 これがテレキネシスだ!   1月29日
第6話 危機一髪!バビルの塔   2月 5日
第7話 もうひとりの司令官   2月12日
第8話 悪魔の秘密基地   2月19日
第9話 恐怖のロッキー山脈   2月26日
第10話 必殺ロボット・バラン   3月 5日
第11話 アンドロイド2段攻撃   3月12日
第12話 ロボット電送マシンX1   3月19日
第13話 人工衛星を取り戻せ   3月26日
第14話 危うし!!怪鳥ロプロス   4月 2日
第15話 ノートルダム発狂事件   4月 9日
第16話 幻の100兆円   4月16日
第17話 まっくら闇の挑戦   4月23日
第18話 口笛を吹く悪魔たち   4月30日
第19話 マンモスゴリラの襲撃   5月 7日
第20話 戦慄の宇宙大作戦   5月14日
  
 
タ イ ト ル
放送日
第21話 赤ちゃんは超能力者   1973年5月21日
第22話 深海のカニロボット   5月28日
第23話 死霊からの招待   6月 4日
第24話 永遠の都 凍れるゾロウ   6月11日
第25話 死のV号作戦   6月18日
第26話 総攻撃バビル2世   6月25日
第27話 新たなる闘い   7月 2日
第28話 黄金のアミーバ   7月 9日
第29話 死を呼ぶギター   7月16日
第30話 ロボット使いの暗殺怪人   7月23日
第31話 死霊の馬ブルーペガサス   7月30日
第32話 ダスト・デビル死の灰作戦   8月 6日
第33話 どくろ魔女の恐怖   8月13日
第34話 夏に降る雪の狩人   8月20日
第35話 狂った女王蜂   8月27日
第36話 ヨミの秘密兵器ゴーリキ2号   9月 3日
第37話 謎のイプシロン星人   9月10日
第38話 東京地下占領作戦   9月17日
第39話 必殺!バビル2世対ヨミ   9月24日
(第18話は作中に不適切な表現があり、放送禁止になっています)
 原作の漫画は連載中であったため、原作をベースにした話は3割ほど。オリジナルストーリーが多く盛り込まれていた。
 ここで書くまでもないが、声優の神谷明氏は本作品が初主演である。オーディションでは当時数多くの少年役を演じていた野沢雅子氏とその座を争った。採用を決定した斉藤侑氏(企画担当プロデューサー)は、神谷氏にとって初主演になるとは知らず、「大胆なキャスティングをした」(−J)と往時を回顧している。この大抜擢ののち神谷氏はスターダムへと勇往邁進することとなる。
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◆参考資料 (参考程度も含む。引用文は文中に「 」で明示)
 @「週刊少年チャンピオン」1971年28号〜1973年47号 (秋田書店)
 A「月刊少年チャンピオン」1973年5月号 (秋田書店)
 B「その名は101」チャンピオンコミックス第1巻〜第5巻 1978〜1980年 (秋田書店)
 C「オックス」5号 横山光輝クラブ
 D「いきなり最終回 PART4」JICC出版局 1992年
 Eカラー連続TVまんが「バビル2世」制作資料 NET・東映 1972年
 F別冊太陽「横山光輝マンガ大全」 平凡社 1998年
 G『漫狂』2号 1979年 (マンガ批評大系第4巻「マンガ家は語る」平凡社刊に掲載)
 Hマンガ少年臨時増刊「TVアニメの世界」 朝日ソノラマ 1977年
 ILPテレビドラマシリーズ「バビル2世」 日本コロムビア 1979年
 JDVD−BOX「バビル2世」 パイオニア・エンタテインメント