読者からの反響 97/11/06 「お産にたずさわる医師から その2」
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月14日

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お産にたずさわる医師から その2
H.S. (病院勤務産科医)

患者さんにはお産をリスクのあるものと認識し、よく勉強してからお産に臨んでほしいと思います。 私自身としては少しでも妊婦さんの理解の手助けになればと思い、母親学級(うちの病院では夫立会いの分娩を推奨する意味から、できるだけご夫婦で来ていただいています)では時間をかけて異常分娩のことや陣痛促進剤のことや帝王切開のことについて説明しています。

一般に、最近の傾向として、 「お産は自然現象だから医療行為が介入するのは不自然であり病院でのお産は好ましくない」 といった論調の記事が新聞などに掲載されることがありますが、これはちょっと危険じゃないかなと思っています。 阿部さんはおわかりと思いますが、全く自然の経過にまかせておくと危険なお産は少なくありません。 産科医の立場としては、やはり母児共に安全にお産するというのが、どういう議論をするにせよ最も重要なことだと考えています。

陣痛促進剤を使う際に分娩監視装置の使用 + 医師の監視が必要なことなどは私やそのまわりの産科医の間では当然すぎて議論の対象にすらなったことはありません。 確かに裁判になった例をみるとそのことすら守られていないことが多いようですね。 これは産科医全体の教育レベルを統一して、年配の産科医にも古いやり方は良くないとはっきり指導できるシステムが必要なのでしょう (最近は産婦人科関係のいろんな講習会であらためて指導されるようにはなってきたようです)。

実際はどこの病院でもかなり陣痛促進剤を使用することが減ってきています。 これはやはり陣痛促進剤にからんだ医療裁判の増加が大きく影響していると思います。 医者も患者も「陣痛促進剤」という言葉そのものに過剰反応しています。 特に、いわゆる「社会的使用」は私の知る限りどこの施設においても、ほとんど行っていないようです (ただし何らかのリスクのある分娩で、いつでも即座に帝王切開に切り換えられる体制で経腟分娩を試みる場合などでは、やはりスタッフの多い日中の分娩が望ましいという状況も厳然としてあります。 そのような場合には、慎重に促進剤を使用して分娩の時間帯を調節することはあります。 もちろん患者さんには十分説明した上でですが)。

促進剤の使用に慎重になることは、病院の都合に合わせた安易な社会的使用を抑える意味では正しいといえるでしょう。 しかし、何らかの医学的理由があってうまく促進剤を使用すれば経腟分娩できるであろう例においても、敢えて使用せずに帝王切開で対処する傾向が強くなってきたことも事実です。 非常に安産で経腟分娩するか帝王切開かの2極分化の時代になってきました。 結果的に日本の帝王切開率は年々増加の一途をたどっており、このことは最終的に患者側の利益になっていないようにも思うのです。 帝王切開率があまりに高くなってくるとアメリカの例を見るまでも無く、帝王切開の合併症が問題になってくることが容易に想像できるからです (帝王切開そのものによる母体死亡率は経腟分娩による母体死亡率よりも4〜5倍高いと言われています)。 現実に日本でも帝王切開の増加に伴い肺塞栓による妊産婦死亡例が増加してきたという論文が目につくようになってきました。

医者側も、お産に関する事故については知識を深めて予防できるものは予防したいという気持ちが強く、産婦人科のいろんな雑誌で、裁判に至った分娩例の検討などは行われています。 これらの記事はかなり医師に対して厳しい内容が書かれているものが多いようです。 今、多くの産科医は産科という分野が突発的な事故の起こりやすい科であることを自覚していることは紛れもない事実です。

しかし多くのお産の中には、まれに不幸な転帰に終わる例もあります。 主治医として精一杯自分の力を注いだにもかかわらず悪い結果が出たときは本当に愕然とします。 特にお産のトラブルでは本来めでたいことが180度反対の不幸のどん底にたたきつけられるわけですから、妊婦さんやご家族の悲しみはいっそうです。 そんな時でも妊婦さん自身はこちらが必死で治療にあたっていたことを自分の目で見て知っておられますから、経過について説明してもよく理解して下さいます。 やはり正直に話をするのがベストだと思っています。 悪い結果が出たときには、患者さん側からも不満や疑問を隠すことなく訴えてほしいと私は思っています。

お産はいつ始まるかわかりません。 24時間スタンバイしなければならない産科医の環境、それゆえ、環境がきびしい→なり手が少ない→さらに環境がきびしくなるという悪循環を繰り返しています。

現在の日本の産科医の労働環境を良くするためには、お産の集中化が必要ではないかと考えています。 今のように病院がたくさんありお産が中途半端な数で分散していると、たとえば月20〜30程度の分娩しかない病院でも毎日産科の当直医が必要になり、数少ない産科医の労働力が分散して、あるかないかわからないお産のために病院に詰めていなくてはなりません。 お産を扱う施設をある程度しぼって、人的資材も物的資材もそこに集中するようにすれば、効率良く仕事ができるのではと思っています。 しかしこれにはお産の取り扱いが流れ作業的にならないかなどいろいろと反論もあると思いますし、私自身あまりに肥大化したシステムの中でのお産には不安があることも事実です。 今後議論していく必要があるでしょう。

患者側、医療側どちらも偏見無く本音を語り合って、少しでもお互いを理解していければいいなと思っています。


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