読者からの反響 97/10/20 「お産にたずさわる医師から一言」
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月14日

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お産にたずさわる医師から一言
H.S. (病院勤務産科医)

いつも「医者にメス」読ませていただいております。

私自身毎日お産を扱っておりますが、お産に関する医療裁判の記事を見るにつけ複雑な気持ちになります。 インフォームド・コンセントや患者さんの権利などについては私自身常に気を配っているつもりですし、何よりも自分が担当している妊婦さんには元気な赤ちゃんを生んで母児共に健康な状態で退院してほしいと願っています。 ほとんどの産科医そうであると思います。

しかしこの仕事を10年以上やってきてつくづく思うことは、お産という不確かなものを扱うこわさです。 医学が進歩したとは言え、まだまだお腹の中の胎児に関して充分な情報を得られるわけではありませんし、陣痛が始まってからの胎児の状態を先々に予測していくことは非常に困難です。

我々のできることはその時点その時点で得ることのできる情報を最大限に活かし て、患者さんに良かれと思うことをしていくしかありません。 例えば破水して長時間経過してもお産にならず感染の危険が出るような時には、患者さんに説明した上で陣痛促進剤を使うこともありますし、もう少しでお産という時になって胎児の仮死徴候が現れた場合には吸引分娩を行うこともあります。

しかしその時にはこれがベストだと判断したことでも、必ずしもいい結果出るとは限らないのがお産の実にこわいところです。 結局結果が悪ければ、「もっと早くに帝王切開していればこんなことにはならなかった」と責められるのは非常につらいです。 どの時点で帝王切開すべきなのか?・・・・これが常にわかれば我々も苦労はしません。

赤ちゃんが死んだりあるいは何らかの障害が残ったりした例の全てに 「この時点で帝王切開していれば、この子は助かったのに、それをしなかったのは医者の過失である」 といわれてしまえば、もう我々は仕事はできません。

もちろん明らかに陣痛促進剤の使用方法が不適切であったとか、医者が充分な観察を怠ったとか過失があれば責められるべきだと思いますし、お産に関する裁判の中には医療側が責められるべき事例が多いことも事実です。 それらを否定するつもりはありません。

しかし記事を読む限りどう考えても医療側が責められるのは理不尽 ではないかと思われる例もあります。 結果が悪ければ必ず医療側に過失ありという風潮は我々産科医にとっていくらかの抵抗をおぼえざるを得ません。

一言いわせてもらえるなら、お産と言うものは不確かな要素が多くて、いかに注意深く経過を見ていても赤ちゃんを救えない例が数少ないながらも存在しているということも理解していただきたいのです。

私自身、過去に赤ちゃんを救えなかった例が何回かあります。 患者さんの悲しみは察するにあまりあるのですが、主治医の私も非常につらく悲しい思いでした。 しかしいづれの例においても自分としては分娩の経過を注意深く見ていて、最大限の努力を尽くしたつもりでしたので、患者さんと家族の方に何も隠すことなく経過について何回も説明しました。 幸いご理解いただいて今のところ裁判にはなっていません。

あと何年この仕事を続けられるのかわかりませんが、薄氷を踏む思いで毎日お産に立ち会っています。


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