読者からの反響 97/07/22 「気管支拡張剤」
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月10日

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気管支拡張剤の過量投与による死亡事故について
Y.M. (大学病院呼吸器内科医師)

気管支喘息の治療薬として広く用いられている気管支拡張剤(β-刺激剤)の吸入薬の過量投与による死亡事故がこの7年間で少なくとも7例あったということが最近、マスコミで報道されています。 気管支拡張薬に限らず、吸入薬に限らず薬を指示された用量以上に用いることは大変危険です。 しかし、今回の報道により喘息で通院中の患者さんやご家族の一部に誤解が生じている面もあるようです。

今回の事故の原因は気管支拡張剤の大量使用による不整脈の誘発とされています。 通常、気管支拡張剤の吸入は1日に8吸入(製品によっては4吸入)までとされています。

2回の吸入を2度繰り返しても効果なくむしろ悪化するときは病院を受診するとが推奨されています。 しかし、実際にはこうした指示を守らず(説明不足もあるかもしれません)、良くならないからと、1日に40回も吸入をしたりする人がまれならずいます。 事故はこうした極端な過量吸入によって生じています。

病院でも時に、(特に小児の場合)気管支拡張剤をあえて大量に吸入させる治療を行うことがあります。 酸素吸入、点滴、心電図モニターなどを行い、医者や看護婦の監視の下でならそうした治療も可能でしょう。 しかし、病院以外の場所で医者も看護婦も酸素も点滴もないところで気管支拡張剤の大量吸入を行うのは極めて危険です。

そのように説明しても「今までそれで大丈夫だったから」と気管支拡張剤の乱用を止めようとしない人がいます。 「事故」は警告なしに起こります。 「今まで大丈夫だったから」というのは危険きわまりない考え方です。

「診察は不要ですから、気管支拡張剤(吸入)だけ下さい」 と病院の窓口で言う人がいます。 気管支拡張剤はその場しのぎの薬です。 喘息が軽症な場合は気管支拡張剤の頓用のみでよい場合もありますが、自己判断のみで気管支拡張剤に頼った治療をすることは大変危険です。

「苦しいのだから仕方ない」という人もいます。 しかし、気管支拡張剤を普通に使っても発作が止まらないということはそれだけ発作が重症であることを意味します。 重症の発作では喘息発作による死亡の可能性もあります。 喘息発作による死亡者数は1年間に7,000人とも言われており、薬による死亡をはるかに上回ります。 発作時に指示された薬を用いても改善がないときは病院に来て治療を受けることです。 もう一つ大事な事はそのような発作が起きないように計画的な喘息治療を受けることです。

気管支拡張剤には内服もありますが、1日4錠の内服を40錠も飲めば、吸入薬以上に危険です。 吸入薬が内服薬より危険なのではありません。 どちらも指示された量を越えて使用すれば危険です。

気管支拡張剤にも種類はあります。

1970年頃に使われていた古いタイプのもの(メジヘラーなど)は通常の使用でも心臓への負担がかかりやすく、吸入後に動悸を感じることが多かったようです。 持続時間も2時間くらいと短かくすぐ効果が切れてしまうという問題もありました。 死亡事故も現在より多かったと推定されています。

その後改良が加えられ、第2世代(サルタノール、アスミドンなど)、第3世代(メプチンエアーなど)となるにつれて、心臓への負担は少なくなり、作用時間も6〜8時間くらいに延長してきています。 古いタイプの方が効き方が鋭い印象があるようで患者さんの中には古いタイプを好む人もいますが新しいタイプの方がより安全性が高い事は知っておいて下さい。 また、時に見られる手指のふるえなどはむしろ古いタイプの方が少ないようです。

新しいタイプに属するのですが今回問題になった「ベロテック」という吸入薬使用者に他の薬に比べて事故が多いようです。 1回にでてくる量が他のものより多いことなどが原因とみられており、決められた回数以内の使用では問題ないと考えますが、念のため私はできるだけ他の薬をお勧めしています。

気管支拡張剤の乱用が危険なのは上記の通りですが、「気管支拡張剤=怖い薬」という受け止め方も間違っています。 風邪薬でも10回分を1度に飲めば危険でしょう。 気管支拡張剤が特別危険というわけではないのです。 特に上記の新しいタイプのものは安全といえます。 喘息治療にはなくてはならない薬ですし、指示に従って正しく理解して使えば、危険はありません。

もう一度くりかえしましょう。

重症の発作を気管支拡張剤の大量使用で乗り切ろうとすることが危険なのです。

医者のなかには 「気管支拡張剤は大変危険な薬だから、できるだけ使用しないでどうしても苦しい時にだけ使いなさい」 と指導する人もいるようです。 やたらに気管支拡張剤を使う傾向のある人にはそうした指導も必要かもしれませんが多くの患者さんにとってはこうした指導はかえって危険です。 「どうしても苦しいとき」には気管支拡張剤はもはや効かなくなっている可能性が高いです。 効かないから「もう1回」「もう1回」とかえって大量に使用する事になるのです。

気管支拡張剤はむしろ、苦しくなったら軽いうちに使うことです。 軽いうちに使って効果が不十分なら、指示された別の薬を使うか、病院を受診するべきです。 できるだけ使わないということがかえって「手遅れ」になり大量使用をさせる原因になります。 もちろん、「何となく苦しいから使う」というようなことはお勧めできません。

自分の喘息発作がどの程度重症なのかは案外、正確にはわからないものです。 正しく使うためには、ピークフローの自己測定を行い、ピークフローの値に基づいて使用することです。

吸入薬には大きくわけて気管支拡張剤とステロイドがあります。 両者の役目は全く違います。

吸入ステロイドは喘息発作によって起きる気管支粘膜の炎症をおさえます。 気管支喘息の発作が起きると気管支が痙攣して細くなるとともに気管支の粘膜が腫れ上がってそのためにますます気管支が狭くなります。 また、こうした炎症は一度発作が起きると2週間以上続くと言われていますが、その間、気管支粘膜は非常に敏感な状態になって次の発作が起きやすい状態になっています。 成人の喘息の患者さんの多くはこうした気管支の粘膜の腫れが常にみられるとされています。

気管支拡張剤は気管支の痙攣をしずめますが、この気管支粘膜の炎症には効果はありません。 だから一度、発作が収まっても、ちょっとした刺激でまた、発作が起きてしまいます。 ステロイド薬でこの粘膜の腫れをおさえることが発作を完全におさえるために有効です。

ステロイドというと副作用を心配される方も多いと思います。 確かに注射や内服のステロイドを長期に使うといろいろな問題が起きてきます。 注射や内服では気管支だけでなく体中に薬が回ってしまいますから副作用が起きやすいのです。 しかし、吸入ステロイドではかなり大量に吸入しても肺以外には薬はほとんど作用しませんので副作用は非常に少ないとされています。 しかも発作の予防には非常に大きな力を持っています。

問題点をあげるとすれば

  1. 時に、のどが痛くなったり声がかすれたりすること。
  2. 発作がひどいときや肺活量の小さい人ではうまく吸えないことがあること。
  3. 気管支拡張剤のようにすぐには効かないこと。
1、2については吸入補助具を用いてかつ、吸入後にうがいをすることでほぼ、解決できます。 3については吸入ステロイドはあくまで毎日、定期的に使用して初めて十分な力を発揮するということを理解してもらう必要があります。

ただし、発作がある程度以上、重症な時は吸入ステロイドでも効果ないことが多いです。 こうした場合は注射(点滴)や内服のステロイドを使用します。 副作用が問題になりますが、1〜2週の短期間ならばあまり大きな問題にならないことが多いです。 手遅れになればそれだけ多くの薬を長期間使わなくてはならなくなりますし、大発作をおこせば命に関わることもあるわけですから、早めに対処することです。

また、ステロイドを現在内服している人はピークフロー測定を実行し、状態が安定しているならばできるだけ、吸入ステロイドに切り替えていく(慎重に)ことが副作用から体を守ることになります。 もちろん、減量や中止は自己判断では危険ですから、主治医の指示に従ってください。

なお、喘息の治療薬には気管支拡張剤に似たものとして、テオドールなどのテオフィリン製剤があり、吸入ステロイドのような予防効果をもつものとして、インタール吸入薬経口抗アレルギー薬もありますが、今回は省略しました。


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