読者からの反響 97/07/21「薬害問題」
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月14日

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薬害問題に関する私見
Y.M. (大学病院呼吸器内科医師)

例えば、薬害エイズやソリブジン事件、高カロリー輸液中のビタミンB1欠乏事故については多くのマスコミや貴ページで言われている通りだと思います。 無責任な厚生省、利益第一主義の製薬会社、薬、特に副作用に対する認識があまりに甘い多くの医者。 こうした人々のために犠牲者がでたのです。

高カロリー輸液中のビタミン投与の件で厚生省への批判が展開されています。 外来であまりにも安易にビタミン剤が投与されて医療費の無駄になっていたこと(薬局で買えば高価なビタミン剤が病院では健康保険でただ同然)から、ビタミン欠乏症状がないのにビタミンをむやみに投与するなという方針がでたのでしょう。 これは妥当な事だと思います。 一方、食事のとれない高カロリー輸液投与中の患者に関してはビタミンを投与しない限り全員が必ずビタミン欠乏状態になるわけですから投与するのは当たり前で、高カロリー輸液中の患者へビタミンを投与するなとか、ビタミンを投与すると保険でカットされるといったことは決してなかったはずです。 私も大学病院でも民間病院(アルバイトです)でも高カロリー輸液には常にセットでビタミン剤を処方していますが、保険でカットされたことは一度もありません。 つまり、この事故に関しては100%主治医の責任です。

塩酸イリノテカンの問題はこれらの薬害とはかなり性格が異なるものです。 例えば、肺癌に関して言えば、塩酸イリノテカンの適応になるのは手術不能の第3期か4期の肺ガンです。 患者さん達の平均余命は6〜9ヶ月です。 ほとんどの方が1年以内になくなる運命にあります。 今までの抗ガン剤は効果がみられるのがせいぜい30%でその30%の人にしてもせいぜい3〜6ヶ月の延命効果が得られるのみです。 そうした中で塩酸イリノテカンは今までにない効果が得られる抗ガン剤として登場してきました。 私も数名の投与例を知っています。 今までの抗ガン剤と比べ、副作用は確かに強くでがちですが、効果も強い事は確かです。

自分が肺癌になったと考えてください。 治療しなければあと、6ヶ月の命です。 いままでの抗ガン剤を使っても効くのは30%。 延命効果はせいぜい3ヶ月。 新しい薬がある。 延命効果は使用経験が少ないので正確な予想は難しいが、多くの癌の専門医がいままでの抗ガン剤より効果が強いと考えている。 数%の副作用による死亡例がある。 使ってみますか?

十分な情報が患者さんに与えられたうえで、副作用の事も承知で新しい治療を選ぶことは患者さんの自由であるべきです。

塩酸イリノテカンの事故では明らかに主治医の手落ちと思われる例もあったようです。 危険性を十分に説明していなかったり、投与後の副作用の観察が十分でなかったり、こうしたいい加減な医者が一番悪いのはもちろんです。 しかし、細心の注意をはらっても確かに塩酸イリノテカンは危険な薬です。

薬の価値は効果と副作用の比率で決まります。 塩酸イリノテカンは副作用も強いが効果も強い薬です。 死亡事故が多発したから、塩酸イリノテカンは発売禁止にすべきという意見もでました。 過去にも同様のケースで多くの薬が世の中から姿を消しました。 その中には難治性の口内炎の疼痛治療や癌の疼痛コントロールにも極めて有用だった、ベノピリン注射薬や、他の薬にはない抗菌スペクトラムを持っていたコスモシン注射薬など我々にとってはなくてはならない薬が多くありました。 死亡事故が新聞にでると製薬会社は薬害と言われることを恐れてあっさりと薬を回収してしまいました。 実際にその薬を必要としている人がいてもです。

ベノピリン注射薬は癌患者さんの疼痛にモルヒネと併用して使える唯一の(点滴)静脈注射用アスピリン製剤でした。 持続点滴を施行されているひとは点滴内にいれておくだけで薬を飲んだり座薬をいれたり筋肉注射を打たれなくてもよかったのです。 白血病などで重症の口内炎ができた人に保険外使用ですが、ベノピリンを薄めてうがいさせると痛みがとれ、非常に有用でした。 しかし、愚かな医者(多くは開業医)が風邪の発熱にまでベノピリンの注射を乱用し、その中にショックで死亡する例が出てきました。 風邪の発熱に(救急設備もない)医院の外来で使用するという使用法が間違っているのに、薬が悪者にされて発売中止になってしまいました。

薬はみな使い方を誤れば毒にもなります。 それをうまく使いこなしていくのが医者の努めです。 それでも時には予期しない副作用や治療の困難な後遺症が生じることもあります。 医者は薬を使うメリットと副作用の危険を天秤にかけて判断しなくてはなりません。 日本では副作用が少ない薬がそれだけで評価されます。 肝心の効き目はなくてもです。 毒にも薬にもならない薬があふれています。 外国では評価を受けても日本では発売されてない薬の多くは副作用が懸念されてのことです。 逆に日本では広く使われている副作用の少ないが効き目も少ない薬=多くの抗アレルギー剤、脳代謝改善剤などは外国ではあまり使われていません。

風邪薬では1,000人中1人でも重大な副作用がでたのなら、発売中止にすべきでしょう。 しかし、他に換わりのない薬はどうでしょうか。 100人の不治の癌患者の40人の命を平均6ヶ月延ばしたが、3人が死亡した薬。 これは発売禁止になるべきなのでしょうか。 informed consentを得た上で使う道が残されてもよいのではないでしょうか。

最近問題になった気管支喘息用吸入薬による事故はまた、違う性格の事故です。 マスコミが薬害、薬害と騒ぐことでかえって、吸入薬は危険というとんでもなく誤った印象を多くの人にうえつけてしまいました。 確かに気管支拡張剤を大量に使うのは危険です。 事故の多くは1日8吸入しか使ってはいけない吸入薬を20回以上も使ったために起きています。 気管支拡張剤(吸入)の正しい使い方は、 「発作が起きかけたらすぐ使う。 2度繰り返しても効果なければ指示された別の薬を使うか病院へくる」 というものです。

内服が安全かといえばとんでもありません。 1日8錠の内服を20錠も飲めば吸入薬よりも危険です。

それでも、普通の状態ならば気管支拡張剤を大量に使用してもそれで死ぬとは考えにくいです。 喘息の大発作の時は血液中の酸素が欠乏し、心臓に非常に負担がかかってきます。 そのような状態で心臓への刺激作用がある気管支拡張剤(吸入でも内服でも)を大量に使用することが不整脈の発生を誘発することは考えられます。 危ないのは薬そのものではなく、大発作を吸入薬の頻回使用で乗り切ろうとする行為です。 喘息の発作そのものによる死者が年間7,000人と言われています。 薬の副作用の恐ろしさ以上に喘息発作そのものの恐ろしさを知るべきでしょう。 「発作がおきたが吸入薬は危険だからできるだけ使わないで我慢した。 そうしたらどんどん悪化して、苦しくてどうしようもないので吸入したが、全然効かないから、何回も何回も夢中で吸入した」 という人もいます。 今回の報道でかえって、こうした、吸入薬を恐れるがゆえの事故が多くなるのではと心配です。

乱用しないですむためにはステロイドの吸入薬などで予防的な治療をするのが重要なのですが、 「吸入薬は危ないと聞いたので」 と、勘違いして肝心なステロイドの吸入薬をやめてしまってそのために具合を悪くした人が何人もいたといいます。 ステロイドの吸入薬は正しく使えば極めて副作用の少ない薬で、国際的な喘息治療のガイドラインでも喘息治療の中心薬と位置づけられているものです。 しかし、なぜか日本ではステロイド吸入薬は普及していません。 なぜ、ステロイド吸入が日本では普及しないのか。 ここには日本の医療が抱える様々な問題が関係してきますが、この事はまた次回に述べたいと思います。


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