読者からの反響 01/07/12
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月14日

読者からの反響 インデックスへ 医者にメス ホームページへ 古いページへ

医療ミス問題についてのアドバイス
T. Y. (東京都、医師)

医療ミス問題について深刻に考えてくださっているようでほっとしました。 ただ、医者にメス様の質問内容はこういう問題を扱っているにしてはやや勉強不足の感が拭えないのですが、一応説明いたします。

> 検査をすればするほど赤字になるメカニズムを教えてください。

これも医療従事者の中では常識、というより知らない方がおかしいのですが、一 応説明いたします。 査定というのをご存じでしょうか。 以前は確かに出来高払い制で、現在も建前はそうなっているのですが、実際には保険で認められている以外の検査については査定されます。 査定されると国、病院及びマスコミ藪医者というレッテルを貼られます。 つまり無駄な検査をしたからと。 査定された検査、診療は病院が払うことになります。 平たく言えば赤字になるわけです。

しかし、保険で認められている以外の検査=医学でエビデンス(証拠)を得られている検査とは言えません。 薬についても同様です。 つまり正しい治療が保険で認められていないのです。 具体的にはつい最近まで狭心症発作にバファリンが認められていませんでした。 後でも説明しますが、こういう場合は有りもしない「慢性関節リウマチ」等の病名をレセプトにつけます。

最近ではそうした事態を予想して例えば侵襲的検査前の感染症のチェック(医療従事者を守る、消毒の費用の節約の面から見ても非常に重要)は法律違反してまで自費を取ることが私立や開業医では当たり前です(つまり混合診療ということ。 法律違反ですが、普通はちゃんと患者に説明していますし、質の高い医療水準を保つ上で必要なことだと思います)。

しかし、国立、公立では法律通り保険請求をして莫大な赤字を抱えます。 しかもこうした病院は研修指定病院が多く、研修医の学習という意味でもいろいろな検査をし、これらの赤字を助長しています(無駄な検査ではなく、鑑別するために必要な検査なのですが・・・)。

医者にとって何年目になっても一人一人が新しい未知の患者であり、教科書通りではありません。 検査は高い医療水準を保つ上で必要不可欠です。

> 検査をすればするほど赤字になるメカニズムを教えてください。
> なぜ、患者のために嘘をつかなくてはいけないのでしょうか? そんな制度をおか
> しいと思わないのでしょうか?

医者にメス様のおっしゃるとおり医者もおかしいと誰もが思っています。 但し、医者の問題と言うよりこれは厚生省の問題です。 国にたてつくことがどんなに怖いことかは記者の方に聞けば判ると思います。 仮に正しいことを言ったとしたら保険請求の時に査定率が高くなる、営業停止勧告、厳しい指導、下手すると保険医末梢されるなどの事態が起こり得ます(実際に指導くらいは日常茶飯事です)。 誰もそんな目に遭ってまで国にたてつこうとは思いません。 自分が犠牲になってまでやるべき、と言われそうですが、保険医を抹消されてしまってはどうしようもないからです。

こういう問題はゆっくり時間をかけて作戦、方法をいろいろ考えながら世論を変 えていき、国を揺さぶるしかありません。 こうした努力は必要だと思います。 すべからく対抗組織が大きくないといけませんが、本来そうしたことをやるべきの医師会が無能な状態で、保守的ですから現状は無理でしょう。 こうしたことはどこの世界も同じなのです。

医療ミスを100%なくすことは理系の方なら不可能であることは容易に想像できると思いますが(航空業界などでは皮肉なことに死亡事故が出るたびに安全対策が完全なものになっていき、死亡率が減った。 予測不可能な事態がおこることはどの世界も同じ。 人間誰しもミスはします。 医者なんだから気合いで医療ミスをなくせ、というえせ理論がマスコミや世論にありますが、それは理論ではなく、ただの感情論です。 感情論に良いことはありません(最悪戦争を生みます)。

医療ミスをゼロに近づけることは可能ですし、そして、そうした努力も必要です。 アメリカでは医療ミス問題に予算が出ていますが、日本ではすべて医者任せです。 医者任せといえば、日本では例えば薬を出すときに医者が確認をしてその通りに出します。 しかし、医者も人間ですから忙しい外来ではチェックを怠ることもあります。 アメリカではナース、薬剤師がさらにチェックし、最後にリサーチナースがチェックするという試みが成されています。

看護婦のハードさが言われていますが、実際には医者はさらにハードです(マスコミではあまり言われていないですよね)。 看護婦は8時間勤務後8時間の休みが取れます。 医者は下手すると1日48時間勤務です(24時間ではありませんよ)。 完全に労働基準法違反ですね。 寝ずの当直の後など外来をやっていて、寝ぼけているとこと必要な説明などを省いたり、薬の確認を怠ったりすることは残念ながら日常茶飯事です。 私でもこうしたミス(正確に言うとミスやaccidentでなくIncident)は何度もあります(幸い大事に至ったことはありませんが)。 寝不足は幻聴、幻覚が出てきたり、まともに試行できなくなると言うことはすでに実証されていますから、気合いでできるということは通用しません。

> なぜ説明する時間がないのでしょうか? 説明に関する資源 (人、設備、時間等)
> を病院がケチっている、もしくはケチらざるを得ない診療報酬制度になっている
> からではありませんか?

まさにその通りです。 でも、何故そうなっているかをもう少し調べ上げて欲しかったですね(やや考え方が傾いている感があります)。 病院がケチっていると言うのは語弊ですね(そういう病院も中にはありますがほんの一握りです)。

それよりも正確には診療報酬制度の問題です。 日本の医療は薄利多売です。 そうした制度の根本が国民皆無保健なのです。 そうしないと儲かるどころか赤字になります。 入院患者ならともかく、外来では3時間の内に50人くらい患者を診ます(これだけでも医師数が足りないと言うことはおわかりですね)。 単純に計算して3.6分です。

しかも実際には初診は最低15-30分かかりますから人によってはもっと短いです。 しかも少し時間をかけて診ると1時間オーバーして昼食を削ってまで午後の検査、あるいは病棟業務へ携わります(実際には患者さんを待たせて3分くらいでパンをかぶりつく医者が多いですが、それでも悲惨ですね)。 とてもインフォームドコンセントの余裕などありません。 われわれも本来は外来に時間をかけ、患者に納得行くまで説明し(いくら説明しても納得行かない見当はずれの患者さん−大抵自分勝手な人ですが−がいますが、こういう場合は 現時点でも時間をかけて説明してます。 しかし、結局納得されず次の患者さんをさんざん待たせた結果、文句言いながら変える場合が多いですね(そういう患者さんはこの際除外して考えましょう)。

患者自身(あるいは家族)に治療法を選択させます。 その方が実は医者にとっても都合がよいのです。 責任が医者だけでなく患者にも分散されるわけですから。 しかし、上記の通りそれは不可能です。 皮肉なことに優秀な医者ほど沢山の患者を抱え、ろくに説明できません。 それに、私は周りからむしろ患者さんに説明しいる方だ、と言われますが、中途半端な説明時間ではかえって(特に生活習慣病)混乱することが多いです。

ハードルはこれだけあるのです。 医者の質の問題はもちろん、患者側の理解の問題(前述のように自分たちのことしか考えない生活習慣病の方の他、ノイローゼ、精神疾患などいろいろな患者さんがいます。 残念ながらこうした人たちにコスト意識はなく、保険料という名の税金で診療しているのに、まるで自分が金払っているのだから何でもしてくれるのが医者だろう!と言わんばかりです。 自分たちの病気がどうして悪くなったのか判らず、さらにその治療に一般の人たちの税金が使われていることは棚に上げて(こうした人たちの教育にも本来金と時間をかけるべきなのです!)。

医療従事者の労働時間の問題、保険診療の問題(これが一番のネックになっていると思います)、医療ミスチェック機構の問題・・・・・・ 医療従事者だけでなく、日本国民が総出で解決しなければなりません。 他の業界同様、国が予算を建てて対策を立てねばなりません。 医師を始めとする医療従事者、専門家ももっと必要です (医師過剰などといわれていますが、実際には病院等での医師数は他の国と比べても明らかに不足しています。 都市部の開業医はやや過剰になってきていますが病院に於いては日本の場合は研究者もカウントしているのでおかしな数字が出るのです)。

すぐに減るものではありません。医者の気合いだけで完全に防げるものではありません。 今すぐ出来ることは少なくとも仕事中余裕のあるときは医療従事者にそうした事故はいつ起こっても不思議はないのだから気をつけるべきだという心構えでしょう。

医療と国家安全には金がかかると言われていますが、日本人は国民皆無保健と日米安全保障条約の基でぬくぬくと育ってきた人種です。 今、それについて警告がならされるときではないでしょうか。 安全と健康はただではないのです!


読者からの反響 インデックスへ 医者にメス ホームページへ 古いページへ