私の声 97/12/09
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月14日

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1997年 12月 9日
患者主導のインフォームドコンセント 「手術理解書」のすすめ

「医療は患者と医者の共同作業」などと口では簡単に言えるのですが、それを実践するのは簡単ではありません。 「インフォームドコンセント」の日本語訳は一般に「十分な説明の下での同意」となっていますが、現実は「医者が一方的に説明し、患者に同意させる」、つまり「インフォームド」の部分が欠落し、単なる「コンセント」になってしまっています。

理想的には、「医者から書面で説明を受け、その書面とカルテを持ってセカンドオピニオンを求め、最終的に患者が治療法を選択する」のが「インフォームドコンセント」のあるべき姿です。 ところが現実は、医者からの説明を書面で得ることすら、困難な場合が少なくありません。

どうすれば、患者と医者の両者の理解に基づいた治療方法の選択ができるのか。 それを患者の側から実践した例を紹介します。

私の知人のA子さんは、胸の調子が悪く、近くの市立病院で検査を受けました。 マンモグラフィー(X線検査)の結果、「乳頭腫」と診断され、さらに「乳癌」の疑いも捨て切れないとのことで、2次・3次検査を受けました。 2次・3次検査からは、乳癌であるとの確証は得られませんでしたが、胸の調子が悪いのは変わらなく、手術で腫瘍を取り除くことを勧められました。

手術については主治医からかなり詳しく説明を受けることができました。 しかし説明は口頭によるもので、「手術説明書」はもらえませんでした。 A子さんは「手術説明書を書いてほしい」とお願いしようと思いましたが、多忙な主治医が時間を取って説明したあとで、「今のお話を書面にしてください」とは、言い出せなかったのです。

主治医から渡された「手術承諾書」には、以下のような記述があります。

私は、乳腺腫瘍の治療にあたって主治医から説明を受け、手術を受けることを承諾します。 なお、緊急の場合、または医学上の立場から必要と認められる場合、医師の裁量により処置がなされることを承諾します。
これを前にして、A子さんは、考え込んでしまいました。 など、疑問がふつふつと湧き上がります。 主治医から説明を受けたときは、すべて理解できたと感じていたのに。

そこでA子さんは、主治医の説明を自分がどのように理解しているか、不明点は何なのかを文書にすることにしました。 書き出しは、以下のとおりです。

私は、今回、乳頭腫の手術を依頼するにあたり、主治医から説明を受け、以下のように理解しました。 いくつか不明な部分もありますので、説明願います。
次に、主治医から受けた説明を思い出しながら、「自分が病状と手術をどのように理解しているか」を以下の項目に沿って文章にしました。 さらに、不明な部分を以下のとおり列挙しました。 「手術理解書」の誕生です。 A子さんは、この「手術理解書」を手に、主治医とお互いの意識をすり合わせました。

すると、A子さんと主治医に「乳癌の可能性について」大きな誤解があることがわかりました。 A子さんは、「検査の結果、悪性のものは検出されなかったが、絶対乳癌でないとは断言できない」と聞いて「乳癌の可能性は低い」と理解していたのですが、主治医は「乳癌の可能性が高い」と説明したつもりだと言うのです。

この「手術理解書」というA子さんと主治医の間を取り持つものがなければ、お互いの認識がすれ違ったまま、手遅れになったかもしれません。

主治医は「手術理解書」をもとに、「『乳頭腫』の『乳頭』は腫瘍の形状を表わすものであり、発生する場所を示すものではないこと」など、他にA子さんが間違って理解していた部分を正し、A子さんの疑問点にも丁寧に答えてくれました。

A子さんは、主治医の説明をその場で「手術理解書」に反映し、主治医のサインをもらいました。 患者主導のインフォームドコンセントの完成です。 結局、A子さんは主治医に「乳房温存療法の日帰り手術」を受け、今のところ満足できる成果を得ています。

真のインフォームドコンセントは、以下の条件が揃わないと実現されそうにありません。

  1. 「患者の権利法」制定による、「医師から説明を受ける権利」と「カルテやレセプトを閲覧し複写する権利」の確立
  2. セカンドオピニオンを含む「医師から患者への情報提供」に対する報酬制度の確立

多忙や経済的な理由から、医師主導のインフォームドコンセントが行われにくい現状において、医師に比べて時間もあり、深刻さも上の患者が原案を作る「手術説明書」(=「手術理解書」)。 上記諸条件が揃うまでの「患者の自衛策」として、あなたも実践してみませんか?


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