医療過誤裁判 私の場合 原告 長男 陳述書 6
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月14日

医者にメス 私の場合 インデックス 前ページ 次ページ

1999年 11月 11日
甲第 25号証 原告 長男 陳述書 6

6. 手術当日・ K医師の説明 (1995年6月15日(木))

12:30、看護婦より、 「 K医師から説明がある」 との呼び出しがあり、4人で K医師に会いに病室を出ました。 ちょうどそのとき、 「父を手術室に移動させるから付添 1名ついてください」 と別の看護婦に言われました。 4人全員で説明を聞くつもりだったので、急な申し入れにバタバタしてしまいました。 取り敢えず、母が付き添うことにし、残りの3人は K医師の方に向かいました。 あれほど医師の説明を求めていた母は、結局手術説明を受けることができませんでした。

K医師に会ったのは、みんなこれが最初でした。 また、私たち3人は手術前の説明を医師から受けるのも初めてだったので、とても緊張していました。 会議室のようなところで説明がなされるのかと予想していたのでしたが、通されたところは医師控え室のようなところで、 K医師は机に向かい書類を書いていました。

K医師の机のうしろの通り道に、 K医師を中心に扇型に囲むように3人で着席し、説明が始まるのを待ちました。 ところが、 K医師も私たちが口火を切るのを待っているようで、書類を書きながら黙っていました。 黙っていても仕方がないので、私が自己紹介してから、質問することにしました。 K医師の回答を聞きながら、私はメモをとりました。

私「どのような手術をするのですか?」
K「癌のまわりを1〜2cmの余裕を持って切除します。おなかに4つ、穴を開けて、腹腔鏡で手術します」
私「肝臓は血が集まるところで、止血が難しいと思いますが、どうやって止血するのですか?」
K「電気ベースxx とxxxx (専門用語のため聞き取れませんでした)」

K医師は、自分から説明をするという態度ではなく、こちらから質問しなければ何も話さない、という感じでしたので、あらかじめ手帳に書いておいた質問事項を元に、私から質問し、 K医師が回答するといった形で、以下のようにやり取りしました。

私「手術時間はどのくらいかかるのですか?」
K「3時間から4時間です。 それに麻酔にかかる時間が前後 1時間くらい」
私「普通の病室に移れるのはいつですか?」
K「手術後はICU に入り、明日 (6月16日)、一般病室に移れます。 10日から2週間で退院できます」
私「手術の危険性を教えて下さい」
K「合併症として、肝不全、出血、胆汁ろうがある。 肝不全は、1週間後に出ることもある。 出血は数日様子を見る必要がある。 胆汁ろうは 1週間後に発生することも。 肝臓は切った分だけ悪くなるので、腫瘍のまわりを小さく取る。 肝機能が低下すると、肝不全から黄だんや出血が発生し、血液内老廃物により意識不明に陥る。 複数癌ができると手術は困難になるが、今は 1カ所だけ。 しかも今の癌は小さくて肝臓の表面近くにあるので、取ることができる」
私「癌が他に転移していないか手術中に超音波等で調べるのですか?」
K「手術中、診断します」

腹腔鏡手術による事故の新聞報道が手術当日の1週間くらい前にあり、私は腹腔鏡手術の安全性について不安であったので、次のように聞きました。 私「腹腔鏡による手術は危険なのではないですか?」
K「術後の回復が早いです」
私「腹腔鏡による肝臓癌の手術例はどのくらいあるのですか?」
K「本院では 2例目です」

私は、「本院では」とは、どういう意味だろう? 他では一般にやっているという意味にもとれるし、 K医師が半田病院に来る前に手術の経験があったとも取れる。 前の手術は成功したのだろうか? あからさまに聞くのもなんだなと思い、次のように聞きました。

私「前の手術の患者さんは、今どうしていますか?」
K「今、内科で治療中です」

と言うと K医師は、くるりと椅子を回転させ、私に背を向け、机の方を向き、「手術および病状説明書」を書き始めました。

「2例目」ということが、「半田病院では過去に1例しか経験していない」という意味だとわかるのに、しばらく時間が必要でした。 私は、父の手術の可否を自分で判断できるかとても不安でした。 父はもう手術室に運ばれてしまっていました。 母に相談したかったのですが、母は手術室に運ばれた父に付き添っていていませんでした。 妹と妻はずっと聞いているばかりで、相談できる様子ではありませんでした。 そこで、もっと腹腔鏡による手術の詳細が知りたくて、 「腹腔鏡手術と開腹手術の違いが知りたいのですが」 と質問しました。

ところが、 K医師は「手術および病状説明書」を書いていて無言でした。 K医師にとって、医学の初心者である私たちに説明するにしては、漠然としすぎた質問であったかなと反省し、もう少し質問を具体的にすることにしました。 「どのくらいの大きさの穴を開けるのですか? 小さい穴から切った肝臓をどうやって取り出すのか知りたくて」 と聞きましたが、 K医師からの返答はありませんでした。 私は、 「 K医師にとっては答える価値のない質問だったかな? 手術前だし、長々と話すのは迷惑かな?」 と思いました。そこで、 「最初から開腹する方が安全なのではないですか?」 と質問しました。

すると、 K医師は「手術および病状説明書」を記述する手を止め、「ムッ」としたように、次のように答えました。

K「腹腔鏡の方が患者の負担が軽く、術後の回復が早いです。 腹腔鏡による手術が困難な場合は、開腹手術に切り替えます。 次の日には一般病室へ移れ、2週間で退院できます」
私「腹腔鏡による手術が困難な場合とは、具体的にどんな場合ですか?」
K「出血により視野が確保できない場合や、臓器が癒着していたり患部が他臓器の影になっていたりして手術しにくい場合です」

「出血により視野が確保できない場合」というのは、よく理解できませんでしたが、「腹腔鏡に血がついて、見えなくなった場合」をイメージしました。 さらに、 「穴を開けてから開腹手術に切り替えた場合でも、危険性は最初から開腹手術をした場合と変わらないんですね?」 と質問を続けました。

そのとき K医師は、背を向けて「手術および病状説明書」を書いており、この質問には答えませんでしたが、私は K医師が答えなかったことを「危険性は変わらない」とよい方に解釈しました。 というのは、そのころまで私は「医師は患者の健康を守る人で、信用できる人。 さらに市立半田病院は地域住民の健康を守る病院であり、大学病院とは違い、先端的医療を行わない病院」と思い込んでいたためです。

以上の説明を聞き、私は 「腹腔鏡による手術は安全なものだ。 すぐに退院できるし、とても軽い手術で済むのだ。 自分は何を今まで心配していたのだろう」 と思い、とても安心し、晴れやかな気持ちになりました。 さらに私が 「開腹する場合、どのように切るのですか?」 と聞くと、 K医師は 「開腹手術は、みぞおちから肋骨に沿ってメスを入れます」 と答えました。

K医師は「手術および病状説明書」を書き終え、 「他に質問がなければ、ここにサインしてください」 と言って「手術および病状説明書」を私に手渡しました。 私はそれを受け取り、一読しました。 すると、「肝癌の直径が3cm」という記述に目が止まりました。 私は 「橋本医師の2cmという説明と違うな」 と思いましたが、 「直径が2cmでも3cmでも、大差ないのだろう」 と考え、特に質問はしませんでした。 さらに「手術および病状説明書」を読み進めると、 「出血が増えたり、手術が困難な場合は開腹術に変更になることがある」 という記述に目が止まり、サインするのを躊躇しました。 そして思わず、書かれている合併症を口に出して「術後出血……」と読んでしまいました。 すると、 K医師は 「まずないです」 と答えました。 私が 「切ったものを見せていただけますか?」 と聞くと、 K医師は 「見れます」 と答えました。

そこで私は「手術および病状説明書」にサインしました。 しかしサインをしている間にまた出血のことが気になり、 「輸血は必要ですか?私は父と同じ O型なので、必要ならば血を採ってください」 と言うと、 K医師は 「出血がひどいと必要になりますが、まず必要ありません」 と言いました。 私は、「輸血が必要ないということは、出血もたいしたことがないということだ」と理解し、とても安心した気持ちになりました。

K医師は私から「手術および病状説明書」を受け取り、それにサインしました。私たち3人は、 K医師から「手術および病状説明書」のコピーを受け取り、説明を受けた部屋を出ました。

同席した妹 久美子と妻 敬子は、この間、一言も発言しませんでした。あとでそのことを尋ねたところ、妹は「いろいろ聞き過ぎると先生の機嫌を損ねるのではと、ハラハラしていた」と言っていました。

13:00、説明が終了し、私たちは廊下の端にある長椅子で、手術が終わるのを待ちました。

K医師は主尋問で、手術の合併症について 「肝硬変がある場合には肝機能に余力がないものですから、少しの肝切除術でも、あるいは出血が加わったりすれば術後肝不全ということが起こる可能性があるということ、あと、胆管が開いている場合には肝臓の断面から胆汁が漏れることがある、それが胆汁瘻なんですけれども、その場合には膿がたまったりということがあります。 あともうひとつは出血です。 肝臓というのは非常に血流が多い臓器なものですから毛細血管がいっぱいありますので、そういうところから術後、血の塊が取れたりすれば出血することがあるというふうに説明したと思います」 と述べていますが、そのような詳しい説明はありませんでした。

K医師は主尋問で、腹腔鏡下手術の危険性について、 「腹腔鏡下でやることによって手技が困難になることがあるために、手術時間が延長になったり出血が出たりするという場合がある」 と説明したと述べていますが、そのような説明はありませんでした。 また、約半年前に学会発表にて知り得た手術法であり、その発表で使用していたマイクロウェーブ凝固装置やアルゴンビーム凝固装置等の手術器具が使用できない環境で手術をするといった説明もありませんでした。 父は退職して時間を自由に使えたのですから、腹腔鏡下手術の危険性が十分に説明されていれば、術後の経過がよいからといって腹腔鏡下手術を選ぶことはありませんでした。

K医師は主尋問で、手術経験について 「肝切除術経験約 50例、うち肝硬変を合併していた癌の患者さんの手術例が約 20例、肝切除術後 DIC を発生した経験が 3〜 4例で全員死亡」 と述べていますが、このような説明はありませんでした。 この説明があれば、肝硬変合併肝癌の 15〜20% が DIC で死亡するような手術を受ける危険は冒さなかったでしょう。

K医師は反対尋問で、 「肝硬変合併の場合、亜区域切除を目指しても部分切除になってしまい、術後再発の危険があがる」 と述べていますが、このような説明はありませんでした。 私たちは根治すると思って外科手術を受けたのです。 その説明があれば、根治する可能性が低く、手術死亡の危険がある外科手術を選択することはなかったでしょう。

続く


医者にメス 私の場合 インデックス 前ページ 次ページ