医療過誤裁判 私の場合 準備期日 (4)
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月14日

医者にメス ホームページへ 私の場合 インデックスへ 前ページへ

1998年 10月 29日
被告は、あくまでも DIC の発症を主張

平成 10年 10月 28日 被告ら訴訟代理人
名古屋地方裁判所 民事第5部合議係 御中

準備書面

原告らの平成 10年 9月 25日付準備書面(2)に対して

  1. 原告らは、診療録 (乙第 15号証) には、K医師が DIC (播種性血管内凝固症候群) の発症を認めたことをうかがわせる記述はないとして、DICの発症を否定している。しかし、以下の点から DIC は発症していたとみることができる。

    1. 再開腹時の手術記録には、肝断端からウージング様の出血が多く、針糸を数十針かけて止血しようとしたが、次々と別の部位より出血し、止血が困難であること、血液がしゃびしゃびの感じで血が固まらない状態であったこと、タオル 5枚で肝断面の圧迫をつづけ、生血 1パックが入った時点で出血がやや下火になったため、圧迫したタオルを肝断面に残し、後に血液凝固異常が改善すれば、再度開腹手術を行なってタオルを取り除くことを予定して閉腹した旨の K医師による記載がある (乙第 15号証 6頁)。この記載により K医師が再開腹時に DIC すなわち血液凝固異常状態になったと認識していたことが判る。

    2. 再開腹手術終了後の 6月 16日午前 5時 30分の時点では生血の輸血 5パック目が入っていたが、この時点でも腹腔内に挿入したドレーンよりの出血が続いていたこと、これに対し、K医師は生血 6人分を追加して、再々開腹して止血するほかないと判断していたことが診療録に記載されている (乙第 15号証 53頁)。

      右の記載から、6月 16日午前 5時の時点でも、K医師は血液凝固異常状態が続いていると判断していたことが理解できる。

    3. 再開腹手術後に 5人分の生血を輸血したため、再々開腹手術時には血液凝固能は改善してきており、出血部を縫合止血し、残ったウージング様出血部に対しては、オキシセルガーゼ、スポンゼル等の止血剤で圧迫することにより、ほとんど出血がない状態まで改善することができた。再々開腹手術中にも、さらに、6人分の生血 2,520 mlを輸血した。

      DIC による血液凝固異常状態では、血液凝固因子が低下しているため、血液が固まりにくい状態になっている。生血には血液凝固因子が多量に含まれているため、生血の輸血は DIC による出血を止めるほとんど唯一の手段といえる。 生血 11人分の輸血により血液凝固が改善したという事実が、逆に、DIC を発症していたことの証明になる。

    4. なお、 K医師は、再開腹手術終了時に、亡 Sの家族に対し、血液が凝固しにくくなっており、出血が止まらない状態であることを説明した。 DIC とか播種性血管内凝固症候群という専門用語は使わなかったからといって、DIC の説明をしていないことにはならない。

  2. 次に、原告らは、 K医師が DIC の発症を予測すべきであったと主張しているので、この点について述べる。

    1. すでに、平成 10年 7月 17日付準備書面で述べたところであるが、亡 Sの場合、術前の肝機能評価は、

      • ICG-R15分値は 25% (正常 5〜10%) (乙第 11号証 30頁の 5)
      • 総ピリルビンは 1.7 ml/dl (正常 0.3〜1.2 ml/dl) (乙第 15号証 20頁の 5)
      • プロトロンビン時間は 69% (正常 80〜120%) (乙第 15号証 19頁の 10)

      と中等度低下していたが、一般的な手術適応基準からみて、肝全体の 8分の 1程度を切除する亜区域切除術は可能であると K医師は判断した (乙第 27号証 714、715頁参照)。 右の K医師の判断は、亡 Sの術前の血小板値が 4.7万 (乙第 15号証の 10)であることも考慮に入れてのことである。

      肝硬変患者の場合、術中、術後に DIC を発症する可能性はそうでない患者に比べ高いことは確かであるが、どの程度の手術侵襲や出血量が引き金となって DIC を引き起こすかを正確に予測することは困難である。

      本件では、腹腔鏡下手術から開腹手術に移行したが、肝切除術は終了し、閉腹した上で、麻酔の覚醒が開始されている。 したがって、初回手術終了時には DIC は発症していない。 再開腹時に血液が凝固しにくい状態になっていたことから、再開腹時に DIC を発症したものと考えられる。 このことから、DIC 発症の引き金になったのは、術後出血と再開腹による手術侵襲と考えられる。 逆に、初回手術後、術後出血がなく、再開腹による手術侵襲がなければ、DIC を発症する可能性は低かったと考えられる。 術前には肝切除術の手術侵襲と出血量による DIC の発症の可能性は考慮するが、術後出血や再手術を想定し、DIC 発症の可能性を検討することは困難である。 本件では結果的に DIC を発症したが、その可能性を術前に予測することは極めて困難であった。

    2. 肝切除以外の治療法として、エタノール注入法および内視鏡下マイクロ波凝固壊死療法があることを原告らは念頭に置いていると思われるが (訴状 14頁)、前者については癌の大きさからいって本件では適応がなく、また、後者については当時は一般的治療法とはいえない。 このことはすでに答弁書で述べたとおりである (答弁書 17、18頁)。 現時点においても、肝癌治療の第1選択は肝切除術である。

    3. 発症を予測することが困難な DIC の危険性について、亡 Sや家族に対し、K医師が術前に説明すべきだったとは考えられない。

      また、本件では適応のないエタノール注入法や一般的な治療法とはいえなかった内視鏡下マイクロ波凝固壊死療法について、K医師が術前に亡 Sやその家族に説明すべきだったとはいいえない。

  3. 最後に、本件で、K医師が腹腔鏡下手術から開腹術に移行した理由は、腹腔内の大網等の脂肪が多く、視野が十分でなかったこと、約 3時間手術を行なった時点で、肝動脈、門脈の主要血管に到達しておらず、そのまま腹腔鏡下で手術を継続すると、さらに長時間を要すると考えたためである。

    K医師が使用した手術器具は主に超音波メス、電気メスである。オキシセルコットン、フィブリンノリは手術室に常備している一般的な止血剤であり、本件手術でも必要に応じて使用している。肝実質を切離の際使用する器具は術者の慣れや好みによりかなり異なる。 マイクロウェーブ凝固装置やアルゴンビーム凝固装置も術者の慣れや好みで使用する器具であり、肝切除に必須の器具ではない。 これらの器具を使用しなかったからといって、止血の処置に遺漏があったことにはならない。


次回準備期日: 12月 17日 (木) 16:30 名古屋地裁 判事室


このページに関するご意見・ご質問は、こちらに abe@airnet.ne.jp
被告の説明におかしなところはありませんか? ご支援よろしくお願いします。

医者にメス ホームページへ 私の場合 インデックスへ 前ページへ