医療過誤裁判 私の場合 準備期日 (2)
最終更新日: 2002年09月16日、 アクセスした日: 12月14日

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1998年 7月 23日
被告が、「死因は DIC のためとし、無過失」を主張


被告弁護士は、7月 17日付で、準備書面を提出しました。

裁判長は、被告側から提出された準備書面を十分に読み込んでいない様子で、 「原告側で反論があれば、準備書面で提出するように」 と、原告側弁護士に指示しました。

ビデオテープの証拠調べの方法については、原告側の準備書面で争点を整理した上で、決定することになりました。

次回準備期日: 1998年 9月 25日(金) 16:30〜 名古屋地裁 判事室


7月 17日 被告 準備書面

亡 Sの死因をめぐって

  1. 亡 Sの死因は、肝切除後に播種性血管内凝固症候群 (DIC) を併発し、多臓器不全、特に肝不全を合併したことにあると考えられる。 肝不全が合併した理由としては、
    1. 亡 Sの病気が肝硬変合併肝癌であったため、肝予備能 (肝機能の余力) が低下していたこと
    2. 術後に DIC を併発し、術後出血を起こしたため、血圧が低下した状態が続き、肝臓の臓器血流が減少し、肝臓の虚血が起きたこと

    の 2つを挙げることができる。

  2. 右の 1 についてであるが、健常人の場合、肝予備能が大きいため、最大限肝臓の 4分の 3を切除しても、残った肝臓は機能を保つことができる。

    これに反し、肝硬変のある患者の場合、肝予備能が低下しているため、切除できる肝の範囲は制限されることになる。 高度の肝硬変患者の場合、肝予備能がほとんどないため、肝切除術が全く不可能な場合もある。

    亡 Sの場合、術前の肝機能評価は、

    と中等度低下していたが、一般的な手術適応基準からみて、肝全体の 8分の 1程度を切除する亜区域切除術は可能であると K医師は判断した (乙第27号証 714、715頁参照)。

    亡 Sが術後 DIC を併発せず術後出血を合併することがなかったら、術後肝不全も起きなかったと考えられる。 術後肝不全になったのは、肝硬変による肝予備能の低下に、術後出血による肝臓の血流低下が加わったためと考えられる。

  3. つぎに 2 についてであるが、DICは種々の重篤な疾患を基礎とした凝固亢進による全身多発性の微小血栓傾向、その結果としての凝固因子過剰消費および 2次線溶発現による出血傾向が同時にみられる特異な病態とされている。 DIC は一旦発症すると将棋倒し的に凝固、線溶系のバランスの破綻を来し、微小循環不全や制御困難な出血傾向を招き、予後はきわめて不良である (乙第27号証 1204頁)。

    亡 Sは肝硬変患者であったため、肝機能が正常な患者より DIC になりやすい患者であったとはいえる。 術前の血小板は 4.7万 [正常は 12〜13万] (乙第15号証 19頁の10) と低下しており、プロトロンビン時間も 69% [正常 80 〜 120%] と低下していたので、血液凝固能の予備力は低下していたことは確かである。

    しかしながら、肝予備能に応じた適正な術式を選択すれば、DIC が単独で発生することはまれであるとされている (乙第27号証 722頁)。 亡 Sの術前の肝機能評価は前述のとおりであり、一方、手術が肝全体の 8分の 1程度を切除する亜区域切除術であった点からみて、K医師は肝予備能に応じた適正な手術と判断した。

    文献には、術中の大量出血が引き金になって DIC を続発することがあると記載されているが (乙第27号証 722頁)、亡 Sの場合、肝切除術の総出血量は 1,767ml (腹腔鏡下切除術時 550ml、開腹切除術時 1,217ml) で、亜区域切除としてはやや多い量であるが、一般に大量出血とは 数千ml レベルの出血のことをいうので、右の程度の出血は大量出血とはいいえない。 現に、閉腹時に、肝断面からにじむような出血は認められたが、フィブリン糊やオキシセルなどの止血剤により止血することができた。 したがって、閉腹時には DIC は発症していなかったことは確かである。

    正確にどの時点で DIC 状態になったかの判断は困難であるが、術後出血に対する再開腹時、肝断端および肝周囲よりの出血の止血を試みたが、血液が凝固しにくい状態になっていたので、この時点で DIC になったものと考えられる。

    (なお、K医師が再手術に踏み切った理由は、肝切除術を終了し、麻酔から覚醒している時に、肝断端に留置した廃液管より持続性の血性廃液が認められ、その量が 20分間に 200mlに達していたからである。 その時点で、選択する治療法としては、生血や新鮮血を輸血し、血液の凝固能を上昇させて経過をみる保存的方法と再開腹手術により止血を行う方法があるが、K医師は再開腹術を行う方が安全と考え、再開腹術に踏み切った。)

    亡 Sが DIC になった原因を明確に指摘することは困難であるが、強いていえば、肝硬変による肝予備能の低下と血液凝固能の低下による出血傾向の 2つの要因が組み合わさって、1,767ml 程度でもそれが誘因となって、DIC が発症したと考えるべきであろうか。

    肝予備能は、術前の肝機能検査でかなりの程度まで正確に判断することはできるが、肝臓は複雑な機能を有しており、肝機能検査はその一部を反映しているにすぎない。 亡 Sの術前の肝機能検査の結果と評価については前述したが、亡 Sの総合的な肝機能が術前の検査結果や評価よりも実際には低下していたのかもしれない。

    血液の凝固能は、前述のように、肝硬変により亡 Sの血液凝固の予備力は低下していたものの、K医師は亜区域切除術は可能であると術前診断した。

    しかし、現実に、1,767ml程度の術中出血量によって DIC が発証したという結果をみると、K医師の評価以上に、肝予備能と血液凝固能が低下していた可能性はある。

  4. K医師は、癌治療の根治可能性の高さの利点を考慮して、亡 Sの肝癌の治療法として、非手術的治療より手術的治療が適していると判断した。 しかし、術前に予測し得なかった DIC が発症したため、不幸な転帰となった。

乙第27号証 新一般外科術前・術中・術後管理


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